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ソフトバンクのロボット事業再興がかかる大型出資案件と、広告業界話題の博報堂によるTOBのポイントを解説!【CxO注目のM&A Vol.2】

こんにちは。M&Aクラウド CFOの村上です。

1月からスタートした連載企画「CxO注目のM&A」。直近発表されたM&A事例を取り上げ、その背景や手法、業界トレンドなどについて考察することで、多様化するM&Aのあり方をお伝えしていきます。筆者はCEO及川と私、村上が毎月交替で務めます。

2回目の今回は、ロボット開発で協働するアイリスオーヤマとソフトバンクロボティクスグループが昨年のJV設立に続き、100億円の資本業務提携を結んだ案件と、共に広告業界の主要プレーヤーである博報堂DYホールディングスとデジタルホールディングスが発表した、ソウルドアウト社のTOB案件を取り上げます。ご意見・ご感想などぜひお気軽にお寄せいただきたく、お待ちしております!

アイリスオーヤマ×ソフトバンクロボティクスグループ

引受人:アイリスオーヤマ株式会社(生活用品)
対象会社:ソフトバンクロボティクスグループ株式会社(ロボット)
発表日:2022/2/2
スキーム:第三者割当増資の引受による資本業務提携
出資金額:100億円

発表から7年、財務情報から見えるPepper君の苦戦

2014年に発表されたヒト型ロボットPepper君。一時は飲食店や銀行など、あちこちの店舗に設置され、健気な接客ぶりで注目を集めていました。あれから6年経った2021年6月、Pepperの生産がすでに停止されていたというニュースが流れ、人々に衝撃を与えました。「あんなに華々しく登場したPepper君が……そういえば、いつの間にかすっかり見かけなくなったな」。そんな感慨を抱いた人が多かったのではないでしょうか。

主にレンタル契約で使われているというPepper君。生産停止の理由について、ソフトバンクロボティクスグループは「在庫が一定数積み上がったため」としています。事業そのものが中止されるわけではないようですが、街中で目にする機会が減ったことから考えても、新規のレンタル契約が伸びず、むしろ解約が相次いでいることが推測されます。一説には会話スキルの向上が思うように進まなかったとも言われており、話題性に期待して導入してみたものの、費用対効果を感じられないユーザーが多かったのでしょう。

ソフトバンクロボティクスグループの財務情報を見ると、Pepper君の苦戦の跡が大きく表れています。決算公告によると、2014年3月期には約47億円だった当期純損失は、翌期には約83億円まで増大。2016年3月期はいったん約6億円に減少したものの、翌期には約453億円までふくらみました。2020年3月期には再び当期純損失が約279億円まで増加し、親会社のソフトバンクグループなどから度重なる資金注入を受けながら、1,100億円以上の損失を出していることが推測されます。

ソフトバンクロボティクスグループの資本金及び資本剰余金と当期純損失の推移

ソフトバンクグループが大きな期待をかけて育てたPepper君。どうしたらかわいいだけでなく、稼げるロボットへと変貌させられるのか、関係者にとっては頭の痛い問題だったに違いありません。

清掃・配膳ロボで新たな挑戦。アイリスオーヤマとの出会い

Pepper君の苦戦が続く中、ソフトバンクロボティクスグループが次なる柱として力を入れてきたのが清掃や配膳を担う作業系のロボット。2019年に清掃ロボット「Whiz(ウィズ)」、2021年には配膳ロボット「Servi(サーヴィ)」を発表し、飲食店を中心に導入台数を伸ばしてきました。

その導入拡大において強力なパートナーとなったのがアイリスオーヤマです。一般には家電メーカーのイメージが強い同社ですが、近年は法人向け市場にも注力し、主力のLED照明をはじめとする売上を伸ばしてきました。また、メーカーであると同時に、他社商品も扱うベンダーとしての顔も持っており、「Whiz」の販売台数ではトップの実績を上げています。

商品開発において徹底したマーケットインの発想を貫くアイリスオーヤマの強みは、直販100%の販売体制です。ユーザーに寄り添うスキルに長けたアイリスオーヤマの法人営業力と、ソフトバンクロボティクスがPepper開発で磨いたロボット技術を詰め込んだ「Whiz」の商品力。その掛け合わせによって多くの小売店や飲食店などに受け入れられ、昨今の感染症拡大による“密”の回避も、導入の追い風になったと考えられます。

JV設立から1年、100億円出資でパートナーシップを強化

2021年1月27日、アイリスオーヤマとソフトバンクロボティクスグループは、合弁会社「アイリスロボティクス」の設立を発表しました。資本金は1,000万円、出資比率はアイリスオーヤマ51%、ソフトバンクロボティクス49%。社長はアイリスオーヤマの大山晃弘社長が兼務し、本社所在地もアイリスオーヤマと同じ宮城県仙台市です。

2社はこの日、JV設立と併せて、新商品も発表しました。「Whiz i アイリスエディション」と「Servi アイリスエディション」。オプションとして、「Whiz」には小さなモップが付けられているなど、アイリスオーヤマらしいマーケットインの開発力が生かされたスペシャルバージョンです。新会社アイリスロボティクスが旗を振って進めていく、アイリスオーヤマ×ソフトバンクロボティクスのコラボレーションの象徴として、報道陣にお披露目されました。

アイリスオーヤマは、東日本大震災後の電力危機の際にはLED照明の増産、昨今の感染症拡大の際にはマスクの国内生産に乗り出すなど、社会課題にいち早く反応して事業化することで知られてきた会社でもあります。国内の人口減少による人手不足というかねてからの社会課題に、感染症拡大で拍車がかかる中、作業ロボット開発という同社にとっての新領域に踏み出すべく、「Whiz」を通じて技術力を実感していたソフトバンクロボティクスをパートナーに選んだようです。

今回の資本業務提携の発表は、JV設立からちょうど1年後の2022年2月2日。1年間のデート期間を経て、2社の相性が確かめられたことから、アイリスオーヤマは100億円の大型投資に踏み切ったのでしょう。ソフトバンク側から見れば、これまでグループの一つの顔として、何とか立て直しを図ろうとしてきたロボット事業において、グループ外から援軍を迎えることを決断したことになります。

2社は今後、新型ロボットと法人向けサービスの開発を加速させるほか、アイリスオーヤマの無線制御システムを活用した省エネ化などにも取り組んでいくとのこと。アイリスオーヤマの生産拠点を活用したロボット生産なども視野に入れている模様です。アイリスオーヤマの持つ販売力、そして発売から3年以内の商品による売上比率の目標が6割という驚異的な新商品開発力は、作業ロボットの世界でどのように発揮されていくのか――。かつて日本中を沸かせたPepper君とは形が異なるものの、その技術を継ぐロボットたちの未来に注目が集まります。

ココがポイント!(アイリスオーヤマ×ソフトバンクロボティクスグループ)

①ソフトバンクロボティクスグループの開発したヒト型ロボットPepperは、事業面では苦戦。同社の2014年3月期以降7年間の決算からは、損失がかさみ、親会社からの資金注入を繰り返していることがうかがえる。

②アイリスオーヤマとソフトバンクロボティクスグループは2021年2月にJVを設立。1年間、清掃ロボットや配膳ロボットの開発・販売で協働したうえで、今回アイリスオーヤマからの100億円の出資に至った。デーティング投資の一例。

③ソフトバンクロボティクスグループは、アイリスオーヤマからの出資と併せ、同社のマーケットインの開発力や販売戦略を活用していくことで、事業の収益化を図っていく狙いがあると見られる。

博報堂DYホールディングス×ソウルドアウト

買い手:株式会社博報堂DYホールディングス(総合広告代理店)
売り手:株式会社デジタルホールディングス(インターネット広告代理店)
対象会社:ソウルドアウト株式会社(インターネット広告代理店)
発表日:2022/2/9
スキーム:株式公開買い付け(TOB)

■TOBの概要
予定数:1,079万6,493株、100%(706万4,300株、65.40%を下限)
※591万4,080株(議決権ベースで55.91%)を所有するデジタルホールディングスは応募契約済み
価格:普通株式1,809円、総額195億3,085万5,837円
期間:2022年2月10日~3月28日

社内ベンチャー発。子会社上場を経て“親”とは別の道へ

2022年2月9日、デジタルホールディングス(旧オプトホールディング)の子会社で、東証一部上場のソウルドアウトに対し、博報堂DYホールディングスがTOB(株式公開買い付け)を行うことが発表されました。

対象会社のソウルドアウトは、SMB市場に特化したデジタルマーケティング事業を展開。設立から8年で東証マザーズ市場にIPO、その2年後には同一部への市場変更を果たしました。親会社のデジタルホールディングスも一部上場会社ですから、親子上場です。今回なぜ親子が別れ、ソウルドアウトが博報堂傘下に移る展開になったのか、まずはデジタルホールディングスによる売却決断までの経緯をたどります。

ソウルドアウトの設立は2009年。オプトの社員として約10年勤めてきた荻原猛氏が起業を志し、オプトのグループ会社としてスタートを切ることになりました。設立にあたっては、荻原氏がオプトの社員を前にプレゼンテーションを行い、その思いに共感した約50人が付いていったそうです。

荻原氏は父親が中小企業の経営者であり、氏の少年時代に同社の倒産を経験したことから、中小企業のパワーアップを支える事業に夢を抱いたようです。ソウルドアウトは現在、国内に19拠点を展開し、クライアント各社の課題に応じたフルファネル施策の提案と遂行を強みに、各社の売上拡大などを支援。創業以来成長を続け、2021年12月期は感染症拡大の影響で苦戦しながらも、過去最高となる約223億円の連結売上高を計上しています。

一方のオプトは、2020年から「デジタルシフトカンパニー」を掲げ、同年7月には持ち株会社の社名もデジタルホールディングスに変更しました。さらに、2021年8月には、最終的には「IX(Industrial Transformation、産業変革)」を目指す「デジタルシフト」像を打ち出しています。

IXとは聞きなれない言葉ですが、個社別ではなく、産業全体の変革を図る取り組みを指すようです。同社はそのフラッグシップ的な事業として、LINEとの連携による調剤薬局産業のIX事業などに注力。2022年2月には、IX事業に重点投資し、DX事業は選択と集中を進めていく方針を発表するに至りました。

こうした流れの中で、デジタルホールディングスとソウルドアウトは、ソウルドアウトを上場子会社として維持する是非を議論してきたと言います。デジタルホールディングスの「子会社株式に対する公開買付けに係る応募契約の締結及び特別利益計上見込みに関するお知らせ」の中では、「顧客観点、プロダクト観点、グループ人材観点等で一部シナジーは見いだせたものの、両社の置かれている状況等で、取り組みを深めることが難しく全体波及まで至らず、当社が目指す姿を考えた時になかなか決定的なものを生み出すことができませんでした」と述べられています。

そもそもソウルドアウトが展開しているSMB向けの事業は、デジタルホールディングスのエンタープライズ向け事業とは、解決すべき課題の内容にも求められる施策にも、かなりの違いがあると考えられます。個社に寄り添った提案力を強みとするソウルドアウトにとって、IXを目指すデジタルホールディングスの枠組みの中に、自社を位置づけるのは難しかったのでしょう。デジタルホールディングス側もその方向性を尊重し、よりよいパートナーへと託す決断に至りました。

なお、2020年7月には、ソウルドアウトの従業員が医薬品医療機器法違反の疑いで逮捕される事件があり、この件で親会社であるデジタルホールディングスは、かねて親子上場を疑問視していた海外の株主から批判を浴びています。このことも、今回の決定に多少の影響を及ぼしているかもしれません。

上場会社から完全子会社へ。TOB成立までの道のりとは

ソウルドアウトが発表した「株式会社博報堂DYホールディングスによる当社株券等に対する公開買付けの実施及び意見表明に関するお知らせ」によると、同社がデジタルホールディングスから、保有株式の譲渡を検討していることを伝えられたのは2021年6月。デジタルホールディングスとの協議のうえ、9月に一次入札を実施したところ、31社が参加。2次入札を前に、候補先に対してデューデリジェンスの機会を提供しています。

デジタルホールディングスが最終候補に選んだのは、2次入札で最高額を付けた博報堂DYホールディングス。同社が地方企業や中小企業に対するデジタル広告の拡大を成長領域ととらえていることなどから、ソウルドアウトも同意し、決定に至ります。完全子会社化を目指す博報堂DYホールディングスはTOBを行い、ソウルドアウト株の55.91%(議決権ベース)を保有するデジタルホールディングスが応募する旨の契約を交わしました。

一般に上場企業を完全子会社化する際は、TOBによって買い手がまず3分の2以上など一定以上の議決権を取得します。その後、株式交換や全部取得条項付種類株式を用いた2段階の買収スキームを使用することで完全子会社化に至ります。

また、TOBでは、買付者(今回の場合は博報堂DYホールディングス)によって買付価格が設定されます。他の株主が買付に応募しやすいよう、市場価格(株価)を上回る価格が付けられ、この上乗せ分をプレミアムと言います。プレミアムは、市場価格の20~40%に設定されることが一般的です。

今回、博報堂DYホールディングスが発表した買付価格は、1株1,809円。発表前日の2月8日のソウルドアウト株の終値885円を基準とした場合、プレミアムは104.41%に上ります。一見すると、相当なプレミアムを乗せているため博報堂の株主からは到底賛同が得られなさそうな価格です。

実はこの設定の背後には、この数カ月の市況の大幅な下落があります。直近6カ月の終値の平均価格を基準とすれば、プレミアムは30.14%となり、一般的な設定です。むしろこのタイミングだからこそ、博報堂は手ごろな価格でソウルドアウトを獲得できることになったと見ることもできます。

デジタル領域でM&A積極展開。博報堂が描くソウルドアウトとのシナジー

ここまでソウルドアウトとデジタルホールディングス側から見た経緯をたどってきました。では、買い手の博報堂側は、今回のM&Aによりどんなシナジーを描いているのでしょうか?

1895年創業の老舗広告代理店である博報堂。近年は国内外で積極的なM&Aを進めることで、新たな領域や市場を獲得してきました。たとえば、2016年には米国のデザインコンサルティング企業IDEOに出資。2018年にはインターネット広告のD.A.コンソーシアムホールディングスを完全子会社化しています。2021年11月には、アプリマーケティングのアドウェイズへの出資比率の引き上げも行いました。

2020年3月期~2024年3月期の中期経営計画でも、同社は「インターネットメディア事業の面の拡大」を打ち出し、インターネットメディア事業の売上目標として、2024年3月期は「5,000億円以上」を掲げています。「ソウルドアウト株式会社証券等に対する公開買付けの開始に関するお知らせ」によると、現在の同事業の売上額は「3,000億円程度」。今後2年弱で66%増を目指すことになります。こうした中、これまであまりリーチできていなかったSMB市場におけるビジネスで、10年を超える実績を持つソウルドアウトを迎えることには、大きな期待をかけているものと見られます。

なお、ソウルドアウトの現・親会社であるデジタルホールディングス(当時はオプト)は、2005年から10年以上にわたり電通と資本業務提携しており、2013年にはソウルドアウトも参画して電通子会社と共にJVを立ち上げた経緯がありました。その後、電通との関係解消に至ったのは、デジタルホールディングス側にとって事業上のメリットが乏しかったためとの報道もあります。

「公開買付けの開始に関するお知らせ」で博報堂DYホールディングスは、「(同社グループの)既存顧客の中にはデジタル化対応が今後の課題となる顧客も含まれている」こと、「総合広告会社として幅広い商材を扱うことができる体制を具備している」ことに触れ、顧客基盤や提供サービスの拡大により、ソウルドアウトの成長を後押しできるとの想定を示しています。この想定通り、両社の現場間の連携がスムーズに進み、成果につながるかどうか、業界の目が注がれています。

ココがポイント!(博報堂DYホールディングス×ソウルドアウト)

①デジタルホールディングスは、売却先の選定にあたって入札を実施し、二次入札で最高額を提示した博報堂DYホールディングスへの売却を決定。入札プロセスを経ることで、売却額の最大化を図っている。

②一般に20~40%で設定されるTOBプレミアム(市場価格からの上乗せ額)が、TOB発表の前日対比で100%を超えている。ただし、直近6カ月の平均額対比でみると、プレミアムは30%超。2021年のソウルドアウトの株価は1,700~1,800円で推移していたことを考えると、むしろ割安な価格設定となっている。

③博報堂DYホールディングスは、これまでも積極的なM&Aや出資を通じ、デジタル領域の獲得を進めてきた。ソウルドアウトのM&Aもその流れを汲み、中期経営計画で掲げる「インターネットメディア事業の面の拡大」に合致している。

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