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実はM&Aが活発なマッチングアプリ業界。レッドオーシャンを勝ち抜く経営術とは?

UPDATE M&Aクラウド

M&Aクラウドの及川です。M&Aをアップデートしていきます。

8月10日、マッチングアプリ「Omiai」を運営するネットマーケティングが、米国の投資ファンド、ベインキャピタルによるTOB(株式公開買付)に賛同する意向を発表しました。

マッチングアプリ運営は、実はM&Aが活発な領域です。アプリの利用経験の方はそれほど豊富とは言えない私ですが、M&Aに携わる者として、これまで同業界の動向をウォッチし続けてきました。

そこで今回は、このマッチングアプリ業界を例に取り、スタートアップがM&Aへと至る4つの型、そしてレッドオーシャンで勝ち残るための3つの戦術を考察していきます。

■案件概要
買い手:BCPE Bronze Cayman, L.P.(ベインキャピタルが保有・運営)
売り手(対象会社):株式会社ネットマーケティング
発表日:2022/8/10
スキーム:株式公開買付(TOB)

TOBの概要
取得予定数:1,331万5,192株、88.24%(828万5,800株、54.91%を下限)
価格:普通株式900円、新株予約権1円
期間:2022年8月12日~9月26日

なぜM&A激戦区に?マッチングアプリ業界を概観

ベインキャピタルによるマッチングアプリ運営会社のM&Aは、3月に発表された「with」の運営会社に続き2件目です。主に恋愛の相手を探すための「with」と、その名の通り、真剣な交際相手を求めるユーザーを対象にした「Omiai」。ベインキャピタルは今後も両者を並立させ、得られたマーケティングや機能開発のノウハウを共有することで、双方の企業価値向上につなげる狙いのようです

マッチングアプリ業界は、下の表にまとめた通り、これまでも主要プレイヤーのM&Aを経験してきました。会員数1位の「Pairs」はすでに2015年、同業界のグローバルトップである米国のMatch Groupにジョイン。会員数2位はサイバーエージェントグループの「タップル」ですが、今回、3位の「Omiai」と4位の「with」が同系列になると、合計会員数では「タップル」に迫ると見られます。

日本発の主なマッチングアプリ(M&Aクラウド調べ)

海外資本によるM&Aも、今回のネットマーケティングへのTOBで業界3件目。海外からこれだけ注目されている領域は、他にあまりないと言えるでしょう。金額面でも、「with」の運営会社であるイグニスの買付額は総額約500億円とも言われており、日本のスタートアップM&A史に残る規模となっています。

なぜマッチングアプリ業界で、活発にM&Aが起こるのでしょうか。一つには、多額の資本がなくても事業を開始できるため、スタートアップが手がけやすく、他業種からも参入しやすいことがあります。プレイヤーの数が増えれば当然、パイの取り合いも起こりやすくなります。

ビジネスモデル上、会員数の伸びが収益に直結し、キャッシュフローが読みやすい点も、買い手にとっての魅力になります。また、ネットワーク効果が高い、つまり会員数が多いほどサービスとしての価値が高まることからも、一気に会員数を拡大できるM&Aは有効な手段と言えます。

ネットワーク効果が高いということは、会員数の規模が相対的に下がってくれば、それが即、ユーザー体験に影響を及ぼし、ますますシェアが落ち込む悪循環に陥りやすい面も持っています。これもまた、運営会社をM&Aへと向かわせるファクターです。

さらにもう一つ、マッチングアプリ業界で重要な点として、海外ではすでにM&Aによる成功例が存在することが挙げられます。「Pairs」のジョイン先でもある米国のMatch Groupです。同社は、世界最大級のアプリ「Tinder」を2014年に取得したのをはじめ、国内外で10社を超えるマッチングアプリ運営会社のM&Aを重ね、現在の時価総額は約170億ドル(約2兆3,300億円)に達しています。

日本国内のマッチングアプリの市場規模は伸び続けており、「2021オンライン恋活・婚活マッチングサービスの国内市場調査」(株式会社タップル)によると、2022年には900億円超、2026年には1,600億円超となる予想。若い世代ほどアプリ利用に対する抵抗感は低く、感染症拡大の影響でリアルに出会う機会が減ったことも、普及に拍車をかけているようです。

三菱UFJリサーチ&コンサルティングの調査によると、20代のマッチングアプリ利用率は3割近くに上っています。ただ、米国などに比べるとまだ伸びしろは大きいと言われており、この点も日本のマッチングアプリ市場が海外から注目される要因となっているのでしょう。

マッチングアプリ業界のM&A4件をポイント解説

マッチングアプリおすすめLab」より転載

ベインキャピタルによる連合軍が誕生すれば、業界の勢力図は変わります。現在、「Pairs」に次ぐ会員数を擁する「タップル」は、サイバーエージェントの新規事業開発の成果として誕生したサービス。「趣味でつながる」をキャッチコピーに、現在では同社メディア事業の一角として注力している模様ですが、次はどんな手を打ってくるのでしょうか。かつては自前主義で知られたサイバーエージェントですが、ここ数年は積極的なM&Aを進めています。マッチングアプリ業界でも、今後M&Aを活用して競争力アップを図る展開もあるかもしれません。

このように競合のM&Aは、特にプレイヤー間の競争が激しい業界では、自社の戦略に大きな影響を及ぼす可能性があります。そして、いざ競合のM&A情報が開示された時点で慌てないためには、企業がM&Aの選択に至る一般的な流れを把握し、ライバルの動きを予測しておくことが大切です。

ここからはマッチングアプリ業界の実例を通じ、M&Aへとつながる代表的な事由を見ていきます。

合従連衡で逆転勝ち狙い型:ベインキャピタル×Omiai

「Omiai」のネットマーケティングは、今回のTOBに応じた理由として、恋愛目的のいわゆる「デーティングアプリ」の台頭を受け、競争環境が厳しくなったことに言及しています。特に2021年4月に発生した「Omiai」への不正アクセス問題以降は、情報セキュリティ体制の再構築にリソースを費やし、競争力アップに向けた開発の内製化などを思うように進められないことも課題となっていました。こうした状況から、今後、自社単独で戦っていくのは得策ではないと判断したようです。

一方、買い手のベインキャピタル側は、「with」で培った知見に加え、同じく投資先であるアサツーディ・ケイのノウハウも活用することで、「Omiai」の開発内製化のほか、マーケティングの最適化なども進めたい模様です。

つまり本件は、自社内のパワー不足を感じた売り手が、買い手の持つパワー、この場合は投資先の支援経験に期待をかけ、買い手と共に逆転勝ちを狙うパターン。レッドオーシャンの業界ではよく見られる選択です。

経営者の転職型:Match Group×Pairs

「Pairs」を運営していたエウレカの場合、会社設立から8年目の2014年、「Pairs」の成功によって月商2億円のレベルに達した段階で、IPOではなくM&Aを目指す方向性を選択。創業者の赤坂氏が0→1フェーズを好むタイプであることが主な理由だったようです。実際にエウレカをMatch Groupに託した後、赤坂氏はアパレルブランドの経営などに携わっています。

このように、経営者のキャリア選択としてM&Aの道を取るパターンも、スタートアップでは珍しくありません。

新規事業創出型:フューチャー×東カレデート

マッチングアプリ業界には、M&Aを介して誕生したサービスもあります。「東カレデート」は、かつてマッチアラームが運営していた審査制アプリ「マッチラウンジ」が前身。2017年、「港区女子」などの流行語を生み出した雑誌「東京カレンダー」と組み、「東カレ」を冠したサービスとして生まれ変わりました。

このプロセスをリードしたのは、ITコンサルティングファームのフューチャーです。同社は2012年、新規事業開発の一環として、「東京カレンダー」をM&Aで取得しました。その後、同誌の読者向けイベントが好評で、出会いの場を求める声も多いことなどから、マッチングアプリの中でも高級路線で「東京カレンダー」と相性のよい「マッチラウンジ」に着目。2017年にマッチアラームをグループに迎え、マッチングアプリ市場への参入を果たしています。

自グループの持つ顧客基盤を活かせる新規事業を始めるため、すでに同事業を展開している会社を仲間に迎える――M&Aに臨む買い手としては、非常に多い動機の一つです。

業態大転換のための非上場化型:ベインキャピタル×with

「with」を運営していたイグニスのケースでは、M&Aに踏み切った大きな要因は、最近開始した別事業にありました。同社は将来の成長分野として、VRによるライブプラットフォーム運営に取り組んできましたが、VR事業には大規模な投資が必要であり、会社全体の業績にも影響を及ぼします。このため、東証マザーズに上場していた同社は、上場を続けていると経営の自由度が制限されるリスクが大きいと判断。結果的にベインキャピタルと組んでのMBO(Management Buyout:経営陣による会社買収)を選択するに至りました。

本件は、上場企業が新たなチャレンジに注力する環境を整えるため、非上場化する目的でM&Aを活用したパターン。ここにベインキャピタルのような投資ファンドが絡んでくることもよくあります。

レッドオーシャンで勝ち残る!マッチングアプリ業界に学ぶ3つの戦術

現在マッチングアプリ業界で起きていることは、他業界でも、ネットワーク効果が大きく、ユーザーに継続的に課金でき、かつレッドオーシャン化したBtoCビジネスであれば、遅かれ早かれ起きる可能性があります。

すでに決済アプリ業界では、「PayPay」と「LINE Pay」が統合され、「メルペイ」も「Origami」を吸収。Paidyは米国のPayPalのグループ会社となりました。タクシー配車アプリでは、海外発の「Uber Taxi」が東京展開を始めた2020年、DeNAのタクシー配車アプリ部門と日本交通ホールディングス系のJapanTaxiが統合して「GO」が誕生しています。

今後に関しては、マンガアプリなどでもM&Aが起きる可能性がありそうです。「ピッコマ」運営のカカオジャパンには、香港系投資ファンドが出資しており、すでに海外資本が入ってきています。また、海外発のサービスでは、現在「Netflix」「Amazon Prime Video」「Hulu」などがしのぎを削るオンデマンド動画サービスも、いずれは統廃合が進むかもしれません。

BtoCではありませんが、継続的に課金でき、クロスセルを通じたネットワーク効果が期待できるという点では、SaaSも条件が似通っています。すでに会計SaaSなどではM&Aが活発ですが、今後他領域に波及していくことも十分考えられます。

なお、レッドオーシャン化が予測される業界で戦う企業にとっては、競合のM&Aを早期に察知することと併せ、M&A合戦が起きても勝ち残れるだけのアドバンテージを築いておくことも重要です。再びマッチングアプリ業界の企業を例に、他業界にも応用可能な戦術に注目してみると、主に以下の3つのタイプに分けられます。

①集客で他社に競り勝ち、圧倒的な知名度を獲得

ユーザー数で他社に差をつける王道パターン。「Pairs」の場合は、いち早くFacebook連携に取り組んだことが勝因だったようです。

②隣接サービスを押さえ、ユーザーを囲い込む

恐らくベインキャピタルが企図していると推測されるパターン。ユーザーには、まずデーティングアプリの「with」でアプリ上の出会いに親しんでもらい、次には「Omiai」に移行して結婚前提の交際相手を探してもらえるよう動線づくりをしていけば、他サービスに対し共同戦線を張ることができます。

③エッジを効かせた差別化

満足度の高い出会いを実現するには一定の会員数が必要なマッチングアプリですが、異性からの「いいね」の数が増えすぎると煩わしさを感じるユーザーもいます。「東カレデート」は会員をハイクラス層に限定することで、こうした“質”重視のユーザーにアピール。「東京カレンダー」のブランドイメージもあいまって、業界内でも独自のポジションを獲得することに成功しています。

以上、私なりにマッチングアプリの業界動向から得られた学びをまとめてみました。同じようにプレイヤーが乱立気味の業界、あるいは乱立が予測される業界で戦う経営者の皆様にとって、何らかのヒントになる点があれば幸いです!

ココがポイント!

①キャッシュフローが読みやすく、ネットワーク効果が高いマッチングアプリは、買い手にとってM&Aを検討しやすい領域。海外ではすでにM&Aによる成功例が存在することも判断材料になっていると考えられる。

②競合のM&Aは、特にプレイヤー間の競争が激しい業界では、自社の戦略に大きな影響を及ぼしかねない。企業がM&Aの選択に至る一般的な流れを把握し、競合の動きを予測しておくことが大切。

③レッドオーシャン化が予測される業界で戦う企業は、M&A合戦が起きても勝ち残れるアドバンテージを築いておくことも重要。集客ハック、ユーザー囲い込み、サービス特徴による差別化などの戦術が選択肢となる。

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