見出し画像

クラウドワークスが新たな一手。フリーランス・副業人材サービスの業界再編が始まる?

M&Aクラウドの及川です。M&Aをアップデートしていきます。

働き方の多様化が進み、副業や兼業も少しずつ社会に浸透してきました。そんな変化を背景に、近年プレーヤーが増えているのがフリーランス・副業人材サービスの領域です。

SOKUDANが作成したカオスマップ(2022年12月時点)を見れば、どれだけプレーヤーが多いかが分かるでしょう。そのうちの1社、副業マッチングサービスを手がけるシューマツワーカーが2023年3月28日、クラウドワークスへの株式譲渡および第三者割当増資によって、クラウドワークスグループに参画したことを発表しました。

SOKUDAN「2022年完全版<フリーランス・副業人材サービス カオスマップ>

今回の買い手であるクラウドワークスは、クラウドソーシングサイト「クラウドワークス」をはじめ、フリーランスと企業のマッチングサービス「クラウドテック」、ハイクラス特化型の副業・兼業マッチングサービス「クラウドリンクス」、副業・兼業人材のエージェントサービス「リンクスエージェント」など、人材領域で多彩なサービスを展開。M&Aにも積極的で、直近では2022年にオンライン月額定額決済サービスを運営するグルトの株式を取得し、子会社化しています。

新規事業の立ち上げに加え、M&Aで事業領域を拡大しているクラウドワークス。今回はシューマツワーカー買収の狙いについて分析していきます。

■案件概要
買い手:クラウドワークス
対象会社:シューマツワーカー
発表日:2023/3/28
バリュエーション:18億5300万円(11億6000万円で62.6%を取得)

副業ブームを追い風に急成長した「シューマツワーカー」

まずはクラウドワークスが買収した、シューマツワーカーについて説明していきます。シューマツワーカーは代表の松村幸弥さんが2016年に創業したスタートアップです。

2016年当時、副業に対する社会的関心はそこまで高くありませんでしたが、“副業元年”と言われる2018年以降、少しずつ副業を始める人や副業を受け入れる企業が増加。コロナ禍でのリモートワークの普及も相まって、近年は副業が一般化しつつあります。

そうした社会の変化を追い風に、フリーランス・副業人材サービスが台頭し、成長を遂げていきました。シューマツワーカーもその1社です。副業したい人材と企業をマッチングするプラットフォーム「シューマツワーカー」を展開。コンシェルジュがサポートするエージェント型のサービスです。

同社によれば、2017年のサービスローンチから約5年弱で契約企業数は1100社を超えているほか、登録者数も4.1万人を突破しています。また、2022年10月にはフリーランス・副業の管理オペレーションを一元化できるクラウドサービス「フリーランスフォース」をリリースするなど、フリーランス・副業人材サービスの領域で事業を拡大していました。

資本政策に関しては、2018年にKLab Venture Partners(現:ANOBAKA)、サイバーエージェント・ベンチャーズ(現:サイバーエージェント・キャピタル)らを引受先としたJ-KISS型新株予約権方式で4000万円の資金調達を実施。その後、2019年のきらぼしキャピタルからの資金調達を経て、2020年には東京理科大学イノベーション・キャピタル、環境エネルギー投資から4億円を調達しています。

6年間で6件のM&Aを実施。人材領域で多角化を進めるクラウドワークス

一方の買い手であるクラウドワークスは、2011年11月に設立されたスタートアップです。「個のためのインフラになる」というミッションを掲げ、創業時からクラウドソーシングサイト「クラウドワークス」を展開しています。

代表の吉田浩一郎さんが年始に公開したnote記事によれば、現在クラウドワークスに登録している企業は84.9万社、登録しているユーザー数は527.5万人と。国内最大規模のクラウドソーシングサイトと言えるでしょう。近年の成長スピードも顕著で、昨年1年間で8.6万社のクライアント、約60万人のユーザーが新規登録しています。

2014年に東証マザーズ (現:東証グロース)市場に上場したクラウドワークスですが、上場後はクラウドワークス以外の新たな事業の柱をつくるべく、新規事業の立ち上げに加え、M&Aも積極的に展開しています。2015年にはフリーランスと企業のマッチングサービス「クラウドテック」をリリース。登録者数は現在10万人を超えています。

また、2020年1月にはクラウドワークスに登録する企業やユーザーの基盤を活用するかたちで、ハイクラス特化型の副業・兼業マッチングサービス「クラウドリンクス」をリリース。こちらも開始から3年で登録ユーザー数は10万人を超える規模になっています。2022年にはクラウドリンクスから派生するかたちで、副業エージェントサービス「リンクスエージェント」も開始するなど、複数のサービスを立ち上げ、多角的に事業を運営しています。

M&Aも積極的に仕掛けており、2017年にはフリーランス向けの仕事紹介サービス「3スタ」を展開するgraviee、通信業や自治体、生命保険業などのシステム開発を手がける電縁を買収したほか、コーチ・ユナイテッドから習い事サービス「サイタ」を事業譲受しています。

2021年には即戦力IT人材のダイレクト型マッチングプラットフォーム「CODEAL」を運営するコデアルを買収し、2022年には冒頭で紹介したオンライン月額定額決済サービス「メンバーペイ」を運営するグルトを買収しています。

クラウドワークスのM&A実績

祖業であるプラットフォーム「クラウドワークス」で培ったアセット、そして豊富なユースケースから得た学びを活かし、新規事業開発やM&Aの実行における高い成功率につなげているクラウドワークス。多角化の一つのスタイルとして、参考になる経営戦略です。

コデアルのM&Aも成功。成長著しいフリーランス・副業人材向けサービス

今回、クラウドワークスがシューマツワーカーを買収した狙いは、シューマツワーカーが抱える企業1100社、登録者4.1万人のユーザー基盤の獲得にあったのではないかと思います。

同社が展開する「シューマツワーカー」は副業したい会社員に対して、副業人材を募集している企業の案件を紹介するサービス。いわば、フリーランス・副業向けのエージェントサービスです。副業エージェントサービスに関しては、クラウドワークスも「リンクスエージェント」という同様のサービスを展開しています。

政府が副業・兼業やフリーランスといった働き方を推進していることもあり、クラウドワークスにとっては、競合となるプレーヤーがどんどん増えています。「リンクスエージェント」をさらに成長させていくにあたっては、一定のユーザー基盤を持っているサービスの買収が得策だという判断に至ったのでしょう。

また、クラウドワークスとしては、2021年に買収した即戦力IT人材のダイレクト型マッチングプラットフォーム運営のコデアルが順調に成長を遂げた実績があります(コデアルは2023年4月にクラウドワークスに吸収合併)。エージェント型とプラットフォーム型という違いはあるものの、シューマツワーカーもコデアルと同様にIT人材に強みを持つことから、M&A後の成長にも自信があったのではないでしょうか。

フリーランス・副業向けのエージェントサービスは、今後も市場拡大が見込まれる領域です。Branding Engineerが展開しているサービス「Midworks」の売上高は、最新の決算資料によれば20億円となっており、過去最高の数字を記録。前年同期比で、売上高は71.1%増、事業利益は84.3%増となっています。そうした市場背景もクラウドワークスのシューマツワーカー買収を後押ししたと思います。

Branding Engineer「2023年8月期第2四半期決算説明資料」p23より転載

一方のシューマツワーカーとしても、競合プレーヤーがたくさん出てきている中で、単独で成長を続けていくのは容易ではないはずです。資金調達環境が悪化し、リスクマネーが供給されづらくなっている今の市況であれば、なおさらです。クラウドワークスの傘下に入り、彼らのアセットを活用していった方がよりスピーディーな成長が見込めると考えたのでしょう。

VCも株主に残留。共に「スイングバイIPO」を目指す新たなスキーム

また、今回の買収でユニークな点として、クラウドワークスはシューマツワーカーの株式を取得するにあたり、既存株主からの株式譲受だけでなく、第三者割当増資の引受も行っている点が挙げられます。

第三者割当増資にあたり、シューマツワーカーは普通株式ではなく、C種優先株式を発行。既存株主の議決権を一定維持する形を取っているようです。恐らく、大手企業の傘下で成長した後にIPOする「スイングバイIPO」を目指しているのでしょう。

前回ラウンドで、東京理科大学イノベーション・キャピタル、環境エネルギー投資が引き受けたB種優先株式4090株に関しては、このうち2045株しかクラウドワークスに譲渡されていません。どちらか一方、もしくは両社が一部株式を残しているようです。今回のM&Aでは、経営権はクラウドワークスに移りましたが、VCも株主として残り、共にIPOを目指すという、ユニークなタイプの「スイングバイIPO」と言えそうです。

市場が冷え込んでいる今、スタートアップはIPOを先送りする傾向にあります。今回のような「スイングバイIPO」狙いのM&Aでは、VCはM&A時にEXITするか、一定の株式を持ち続けて、M&A後も対象会社とともにIPOを目指すかを選択できることが分かります。今後もステークホルダーにとって最善の選択を可能にするため、このような新しいスキームが生まれてくるかもしれません。

さまざまなプレーヤーが参入し、サービスが乱立しているフリーランス・副業人材サービス業界。今後、一定の業界再編が生じることも予測されます。今回、フリーランスプラットフォームの最大手であるクラウドワークスと副業マッチングプラットフォームで一定のユーザー数を抱えるシューマツワーカーが組んだことは、同業界のプレーヤーにとって、今後の打ち手を考えさせられる展開になったことでしょう。

ココがポイント!

①クラウドワークスとしては2021年に買収したコデアルが買収後も順調に成長を遂げていることから、コデアルと事業領域が似ているシューマツワーカーのM&Aを決断したと思われる。

②M&A後も、一部のVCがシューマツワーカーの株式を保持し続けている。売り手、買い手に加え、VCも共に「スイングバイIPO」を目指すというユニークな事例。

③フリーランス・副業人材サービスはホットな領域。プレーヤーが乱立していることもあり、今後業界の再編が生じるはず。今回のM&Aはその先駆け的な事例になったと言えるのではないか。

無料相談実施中です!

M&Aクラウドでは、事業成長の1つの選択肢として、M&Aや資金調達に関する最新のトレンドや業界別のインサイトを無料でご案内。問い合わせ企業に関する情報提供はもちろん、3,000件超のマッチング実績をもとに、貴社にマッチした積極買収・出資検討企業のご提案も行っています。

今すぐではなく、将来的な会社売却・資金調達をご検討中の経営者様も、まずはお気軽にご相談ください。


みんなにも読んでほしいですか?

オススメした記事はフォロワーのタイムラインに表示されます!

もし良ければM&Aクラウドのサービスサイトを訪問していただけると嬉しいです!