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ブランドをM&Aして成長 ECロールアップスタートアップ・forestに聞く「うまくいくM&A」の共通点とは

スタートアップには、M&A「される」側だけではなく、「する」側となって成長する企業もあります。本連載は、M&Aで成長するスタートアップがどのような観点で投資を行うのかを、投資担当者にインタビューする企画です。

今回は、ECロールアップ型ビジネスで成長するスタートアップ・forestでM&Aを統括する播川直毅氏に話を聞きました。



forest株式会社 ブランド投資部 部長 播川直毅(はりかわ・なおき)
2011年に丸紅株式会社に入社し、建設機械ビジネスのM&Aに関わる。その後、米国MBA留学、日系PEファンドを経て、2022年7月にforestに入社し、現職。

M&Aとブランドマネジメントが成長の原動力

――forestはECで評価の高い商品を販売するブランドや中小企業をM&Aを通じてグループ化し、自社のノウハウを生かして売上を伸ばすことで成長するECブランドのロールアップ型ビジネスの会社です。今までの成長の経緯を教えてください。

2021年10月のシード資金調達以降、2年間で10ブランド前後をM&Aしています。M&Aの対象となるのは基本的にはECで販売している会社様ですが、特にAmazonや楽天市場などECモールを主体に販売しているブランド運営企業がメインです。

2021年11月に最初の資金調達を行い、現在までに累計38億円を調達しています。(2023年10月時点)当社の株主には、私たちのようなECロールアップ型ビジネスを行っているスタートアップに世界中で投資しているVC・英 Nordstar Partnersもいます。

――御社はM&Aをし続ける会社ということですね。

はい。社内にはM&Aチームとブランドマネジメントチームがあり、M&A後はブランドマネジメントチームにバトンタッチしてPMIを行うという連携を取っています。M&Aしたブランドを自社事業として運営し、永続保有することを前提としており、Exitは考えていません。

――EC企業は山のようにありますが、forestがM&Aする企業カテゴリーに傾向はあるのでしょうか。

ペット用品、アウトドア用品、スマートフォンのアクセサリー、あるいは生活雑貨など、カテゴリー自体は幅広いです。消費財のブランド全般が対象ですね。

forestの投資基準

――カテゴリーが幅広いとなると、投資の判断基準はどこにあるのでしょうか。

基本的にはブランドを持っている会社様やものづくりをしている会社様が対象になります。特に、その会社様の商品が「良いものだから買われている」という点を重視します。

あともう一つ重視する点としては、私たちのグループに入ってそのブランドを伸ばせるかという「成長余地」にあります。

たとえば、当社の社内にはAmazonや楽天市場における販売のエキスパートが揃っています。ですので、「楽天市場では販売が上手くいっているけれども、Amazonは人が足りずに注力できていない」あるいはその逆のパターンも「伸びる余地がある」と判断できます。

――具体的な事例はありますか。

2022年8月にM&Aを行ったOVER’sという会社があります。OVER’sは「ガラスザムライ」というスマートフォンのガラスフィルムなどを販売しており、中国のセラーが大半のガラスフィルムのEC市場において、ほぼ唯一日本のセラーとして頑張ってきました。


スマートフォン用品ブランド「ガラスザムライ」

ガラスフィルムというのはレッドオーシャンではありますが、マーケットは大きいんです。安いけれど品質はそこまで高くない商品が多い中で、OVER’sの商品は高品質でした。そのうえ、ファン作りを意識している会社で、同梱物にこだわり、ユーザーサポートも熱心でした。手書きのメッセージを同梱しているんですよ。

ただ、楽天市場の運用は上手であるものの、Amazonのほうには手が回っていなかったようでした。

――なるほど、そうした会社が「改善の余地がある」基準なのですね。売り手候補はどのように見つけてくることが多いのでしょうか。

まず一つが、M&A仲介会社や銀行、FAからの紹介で、もう一つが自力でのソーシングです。M&Aクラウド様からもいろいろな案件を紹介していただいております。それで、売り手候補を見つけてから2か月から3か月でM&Aにつなげます。

――すべてECの会社ですか。

今のところはそうです。ただ、今は小売店や直営店での販売がメインであるものの、ECをやったらおもしろいのではないかという観点から検討する会社もあります。

うまくいくM&Aに存在する「信頼関係」という共通点


ーーM&Aを行った会社の成長ぶりはいかがでしょうか。

対前年同期比でみれば、大半のブランドにおいて売上高は成長しています。とくに、売主様と信頼関係を築けた会社はうまくいきやすいです。M&Aする会社はいわゆる家族経営のパパママショップが多いのですが、大半のケースで創業者に残っていただき、協業体制を続けています。

――経営者が残る場合は、「3年」などの条件を付けているのでしょうか。

いや、ずっと経営を続けてくださっても構いません。そこは売主様の意向に沿う形をご提案しています。業務委託として協力していただくケースもあります。また、10人くらい社員数がいる会社の場合は、当社のメンバーが常駐して支援することも必要になると思っています。

――「信頼関係」とは具体的にどんなことですか。

ブランドを成長させたいという気持ちが一致していることです。M&Aの交渉において、やっぱり売主様も自分が育ててきたブランドですから、「ブランドをもっと成長させたい」「ブランドを託したい」という思いがあります。ですから、当社に任せて今後も成長させたいと思ってM&Aするわけです。それが信頼関係です。一方、譲渡価格や条件のみが優先されるようなM&Aの取引ですと、どうしても譲渡後の経営方針を協議する時間が割けないため、最終的に信頼関係を築けず、上手くいかないケースも多くなると思っています。

――価格だけではないとおっしゃいますが、やはりバリュエーションに相違があるケースはあると思います。御社のバリュエーションの考え方をお聞かせください。

バリュエーションの考え方は、基本的には直近の利益、要はEBITDAマルチプル何倍で、ネット有利子負債を調整した価格を前提としています。私たちのビジネスはそこまでB/Sを使うものではないため、DCF法はあまり使用しません。

――のれんの考え方はいかがですか。

最近だとバリュエーションの際に「純資産+のれん(利益の何年分)」という考え方をする会社もありますが、私たちはあくまでも利益・キャッシュフローの実績とネット有利子負債を基にバリュエーションすることが一般的な考え方だと思っています。

ただ、グループインしていただいた後に連結決算で見ると、のれんの償却は発生しますので、のれんの償却の金額を考えたときに利益としていくらその会社に残るのかは考えなくてはなりません。のれんの償却後に赤字になってしまったとなると、私たちが想定しているシナジーが足りなかったとも考えられるので、そういうことがないように、のれんの償却控除後に利益がどれくらいになるかは投資の時に考慮しています。

ーーうまくいかないときはどんな交渉をしているのですか。

交渉として、一括で支払う譲渡代金と別に追加でボーナスのようなものを設計させていただくことがあります。また、100%株式を譲り受けず、過半を譲り受けして、残りは引き続き持っておいてもらうケースもあります。将来成長したら初めの譲受価格より高い価格で譲ってもらうという設計にしているんです。

協議した結果、価格や条件が折り合わないケース、タイミングが合わないケースももちろんあります。その場合は、できる限り、そこでやり取りを終了せず、オーナー様と定期的に事業に関する意見交換をして、将来のM&Aを見据えたお付き合いをさせていただくよう心掛けています。信頼関係は一朝一夕で築けるものではないので、このような関係構築は重要であると思っています。

私たちはECブランドのロールアップ事業をしていますから、M&Aを繰り返さないと成長できないというジレンマもありますが、売主様が納得されるタイミングで譲渡してもらいたいと思っています。

一緒になることで再成長できる相手をパートナーに

――売り手が会社をM&Aしようとする目的は何が多いのでしょうか。

まず一つは創業者利益ですが、もう一つの理由として大きいのが、家族やメンバーだけでは成長の限界が来ていると感じられていることです。自分たちで10億円まで売り上げを伸ばせた、という会社でも、その先の成長のためにやらなければならないことが多すぎるんですね。

当社は「サプライチェーン」「Amazon運用」「楽天運用」「クリエイティブ」「海外越境」など、その会社の困りごとに合わせて、必要に応じたメンバーをアサインして改善できる“ファンクション経営”をしています。成長に限界を感じたときに、私たちのファンクションを使っていただけたらと思っています。

――会社自体の目標は売上高ですか、それともM&A件数ですか。

両方ですね。

――それでは、今後はどのようなペースでのM&Aを検討しているのでしょうか。

件数でいくと月1件は実行したいと思います。譲り受ける会社様の規模としては、年商で1億円から30億円規模の会社様もスコープに入っています。

――売り手自体も増えているのですか。

そこも増えていますが、EC自体のマーケットは伸び続けていますので、今後もっと出てくるのではないかと思っています。

――播川さんにとって「M&Aの成功」とはどのような状態だと考えていらっしゃいますか。

私たちは「0→1」ではなく「1→100」の会社ですので、売主様の夢や最終的な目標を達成することが重要です。そのため、たとえば「市場でシェア1位になる」、あるいは「ショップオブザイヤーを獲る」など売主様の夢を実現することができれば「成功」ではないでしょうか。

また、当社のミッションは、「日本のモノを育み、世界を彩る」です。日本で企画された日本ブランドを世界に届けることが、もう一つの目標でもあります。

――どんな会社と一緒に成長したいですか。

「想い」を持って作った会社です。良い商品やブランドを持っていて壁にぶち当たっていたり、課題が解決できなかったり、あるいは事業承継を考えているといったことでパートナーを探している会社は、幅広く協業できる余地があると思っています。

会社としても、ダイバーシティを大事にしています。社員の国籍だけでも5か国。M&Aした会社に対しても多様性を尊重しています。M&A後にもそれぞれの会社が独立した経営をしているのも、特長の一つですね。そうした考えを持っている会社と一緒になることができるのを楽しみにしています。

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文・相馬留美


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