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過半数の株を持つのに連結子会社ではない?複雑な「ねじれ連結」M&Aから読み解くドコモとマネックスの絶妙な駆け引き

M&Aクラウド・M&Aアドバイザーの源道直です。今回はNTTドコモ(以下、ドコモ)×マネックス証券のM&Aをピックアップし、その背景や今後の動向を読み解きます。

2023年10月4日、NTTドコモはマネックスグループおよびマネックス証券との資本業務提携を発表しました。ドコモは携帯キャリア事業者のうち、唯一証券機能を持っていませんでした。ドコモ経済圏拡大のためには、重要なM&Aになったと言えるでしょう。

注目すべきは、今回のM&Aは、中間持株会社に虎の子のマネックス証券をぶら下げる形にし、実質的にドコモの連結子会社化するという複雑なスキームになっている点です。今回はドコモとマネックスグループのM&Aを、ファイナンスの側面から解説するとともに、このM&Aを端緒とした次なる展開を予想していきます。


■案件概要
買い手:株式会社NTTドコモ
売り手:マネックスグループ株式会社
発表日:2023年10月4日
バリュエーション:約466億円

「ねじれ連結」で両社の妥協点を見出すM&A

今回のM&Aで垣間見えるのは、「証券会社をグループ内に持ちたい」と考えるドコモと、「持分法適用会社として証券を残したままグループ入りしたい」と考えるマネックスグループの絶妙な綱引きです。注目すべきは、マネックスグループが過半数の50.95%の株を持っているにも関わらず、ドコモの「連結子会社」になっていることです。つまり、マネックス証券はマネックスグループから“連結外し”されているのです。

この“連結外しスキーム”について、具体的に説明しましょう。

出所:マネックスグループ「NTTドコモとの資本業務提携説明資料」

まず、ドコモとマネックスグループがドコモマネックスホールディングスという中間持株会社(議決権保有比率=ドコモ49.05%:マネックス50.95%)を設立します。この中間持株会社は、マネックスグループの持分法適用会社になり、連結当期利益は減少はするものの持分法適用による評価益は計上されます。

しかし、この中間持株会社の取締役数の割合は出資比率と連動せず、ドコモが過半数を取得しています。取締役会で意思決定ができるという点から、実質支配力基準に基づき、中間持ち株会社及びマネックス証券はいずれもNTTドコモの連結子会社となると監査法人が認めたのでしょう。「ねじれ国会」ならぬ、「ねじれ連結会社」状態と言えるかもしれません。

ドコモとしては、ネット証券の上位2社であるSBI証券と楽天証券はそれぞれ別の経済圏に属しているため、3位のマネックス証券と手を組むことが最善手だったでしょう。ドコモの持つ潤沢なキャッシュから考えれば、マネックス証券を完全子会社にしたかったとは思います。しかし、持株会社から手放さずにドコモ経済圏に入りたいと考えるマネックスグループの首を縦に振らせるために、ドコモが生み出したスキームがこれだったのではないでしょうか。

ドコモは過去にも特徴的なスキームのM&A経験あり

ドコモは2021年にも一風変わったM&Aのスキームを用いています。2021年10月に発表したオンライン薬局サービスを提供するスタートアップ・ミナカラをドコモとメドレーとで共同買収したM&Aがその事例です。

このM&Aのストラクチャーは、

① ドコモとメドレーは、ミナカラの発行済み株式100%を共同取得。ドコモとメドレーの議決権比率はそれぞれ85.1%と14.9%。
② ①と同時に両社による第三者割当増資の引き受けとメドレーによる転換社債型新株予約権付社債(CB)の引き受け。議決権比率は維持。
③ ミナカラの利益拡大後にメドレーがCBの転換権を行使。ドコモとメドレーの議決権比率は66.6%と33.4%に変化し、メドレーの持分法適用会社に

というものです。

出所:メドレー「株式会社NTTドコモとの新事業を目的とした株式会社ミナカラの株式の共同取得等について」

これは、ミナカラとのビジネスにメドレーが関わってほしいと考えたドコモが編み出したスキームかと思われます。

議決権の保有割合が15%以上20%未満の場合でも、他の5つの要件(※)のいずれかを満たすということで持分法適用会社になることがあります。このM&Aでは、メドレーは現時点ではまだ赤字額の大きいミナカラの業績を連結決算に反映せずに、利益が出始めてから持分法適用会社にすることができるわけです。ドコモにとってはミナカラが連結会社になることは決まっており、メドレーの持分法適用可否については重要ではないため、メドレーにとって良いスキームを構築したということでしょう。

※ 5つの要件とは、① 役員、使用人関係、② 資金関係、③ 技術関係、④ 取引関係、⑤ その他事実関係。今回のメドレーの事例は、②の資金関係においてCBを引き受けていることから14.9%に留めたものと推察される。

ミナカラの新経営陣として、代表取締役会長にはドコモ執行役員の三ケ尻哲也氏が就くものの、代表取締役社長にはメドレー代表取締役社長の瀧口浩平氏が就任しています。15%弱の株式所有ながら代表権を持つという構造にするという複雑な構造にしているのも、さまざまな考えがあることを匂わせるものでしょう。

ドコモ経済圏拡大の次なる展開は「銀行」だが…

さて、マネックスグループがこのような複雑なスキームを用いてもドコモと組むことを急いだのは、SBI証券楽天証券が相次いで国内株取引の売買手数料を0円に引き下げたことが影響していると考えられます

両社の発表後に行われたマネックスグループの事業戦略発表会では無料化への追随を否定していますが、来年には大幅な制度拡充となる新NISAが開始され、個人投資家が増えることが考えられます。消耗戦になりかねない手数料競争には参加せず、ここで契約者数約8,800万回線という巨大なユーザー網を持つドコモへ証券事業のみをM&Aしたことは、マネックスの大きな経営判断だったということでしょう。

M&Aによって得られたキャッシュは主に海外の運用会社のM&Aに活用するとマネックスグループ・社長の清明裕子氏はコメントしています。また、De-SPACによるナスダック上場を目指す子会社・コインチェックは手元に残したままですし、証券以外の柱になる事業に大きく投資していくことでしょう。

いずれにせよ、ドコモとしては、証券会社を得られたことで金融事業が大きく前進したことになります。ドコモは「dカード」や「dポイント」だけでなく、2022年12月に三菱UFJ銀行との提携によるデジタル銀行口座サービス「dスマートバンク」を開始するなど決済事業は強化しているものの、携帯キャリア4社のうち唯一、銀行と証券会社を持っていませんでした


悲願の証券会社を手に入れたドコモが次に向かうのは間違いなく銀行のはずです。しかし、独立系のネット専業銀行はほぼ他社にM&Aされて残っていません。そうすると、ネット取引に強い銀行はある程度限られてくるでしょう。たとえば、トップクラスの地銀グループであるコンコルディア・フィナンシャルグループでも時価総額5,700億円程度、スルガ銀行と資本提携したクレディセゾンなどは同4,000億円です。ドコモ経済圏に入りたいと考えるメガバンク以外の金融グループと手を組むのも、一つの方策かもしれません。

監修・源道直
文・相馬留美


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