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時価総額100億規模ながら、上場後1年で5件のM&Aを発表。急成長する「エフ・コード」のロールアップ戦略とは?

M&Aクラウドの及川です。M&Aをアップデートしていきます。

2023年最初の「注目のM&A」では、2021年12月に新規上場し、2022年に立て続けに5件のM&Aを実施した企業のユニークなM&A戦略について分析していきたいと思います。

DX市場、CXニーズの拡大で成長を遂げるエフ・コード

その企業が、カスタマーエクスペリエンス(CX)に関するSaaS事業を展開しているエフ・コードです。同社はランディングページのコンバージョン改善策や離脱防止施策をノーコードで実装できる「CODE Marketing Cloud」を主力プロダクトとし、2021年12月に東証グロース市場(当時は東証マザーズ)に上場しています。
 
エフ・コードはデジタル・トランスフォーメーション(DX)市場の拡大、CX改善ニーズの高まりを受けて成長を遂げており、2022年12月期第3四半期の決算資料によれば売上高は前年同期比+67.9%増加の8.2億円となっています。時価総額は約100億円という企業規模ながら、急スピードで事業規模を拡大している同社の成長を支えているのが近接領域のSaaSを買収するロールアップ戦略です。

ロールアップ戦略とは?

このロールアップ戦略とは、一体どういうものなのでしょうか。ロールアップ戦略とは、プライベート・エクイティ(PE)ファンドがよく用いる手法で、既存の投資先が連続的に買収する、また買収後に既存の投資先と統合することによってシナジーを生み出し、企業価値の向上(バリューアップ)を追求する、というものです。
 
小規模な会社が多数存在している業界で実行される傾向にあり、買収先は主に同業種かつ比較的小規模な会社になります。この戦略を実行することで、市場のパイを確保するとともに、統合による規模の経済を活用した一括効率化を実現し、収益を拡大していくのが狙いです。
 
まさにエフ・コードが事業を展開しているCX改善のSaaS領域は、比較的規模の大きい会社としてCXプラットフォーム「KARTE」を展開するプレイド、外資系企業のZoho(ゾーホー)などが存在するものの、それ以外は小規模な会社が多数存在している市場です。
 
そうした背景もあり、エフ・コードは2022年の1年間だけでチャット型接客ツールやエントリーフォーム最適化ツール、コンバージョン改善に特化したWeb接客ツールなどを展開する企業・事業を立て続けに5件も買収しています。
 
改めて、それぞれの買収について見ていきたいと思います。

1年で5社を買収したエフ・コードのM&Aの変遷

エフ・コードは2021年12月に東証グロース市場に上場して以降、さまざまなファイナンス手法を駆使してM&A資金を調達しながら、積極的なM&Aを仕掛けてきました。

エフ・コードの資金調達とM&Aの経緯
エフ・コードの資金調達とM&Aの経緯

まず、上場時に約1億9500万円の資金を調達した後、2022年1月にSBI証券を引受先とした第三者割当増資によって約4400万円の資金調達を実施。その資金を活用し、同社は2022年2月にコミクスからSaaS事業(エントリーフォーム最適化ツールのEFO CUBE事業、チャット型接客ツールのchroko事業、ABテストツールのButterfly事業、CRMツールのGrowth Hack LTV事業)を3億円で譲受しています。
 
そして、2022年7月に「事業規模の拡大を見据え、資金需要増加に備えることを目的」とし、みずほ銀行から限度借入契約で3億円の資金調達を実施。今度はその資金を活用して、ブルースクレイ・ジャパンからエントリーフォーム最適化ツール・GORILLA-EFO事業を譲受しています。
 
2022年9月に「ブルースクレイ・ジャパンに対する譲渡代金の支払に充てることを目的」としてSMBCからタームローンで9300万円を調達。さらに「事業規模の拡大を見据え、資金需要増加に備えることを目的」として商工中金からも同様にタームローンで1.2億円、10月には三菱UFJ銀行から限度借入契約で4.2億円の資金調達を実施しています。
 
その資金を活用するかたちで、2022年11月にメディアリンクからSaaS型ウェブチャットシステム「sinclo」事業を3.5億円(最大1.5億円のアーンアウト条項あり)で譲受。さらに同月にhachidoriからLINE 活用型マーケティング・チャットボット「hachidori」 事業とSaaS 型動画メッセージツール「recit」事業を7.2億円(最大8000万円のアーンアウト条項あり)で譲受しています。
 
この「アーンアウト条項あり」にしているのもポイントだと思っています。アーンアウト条項を盛り込むことで買収金額を抑えることができ、結果的にエフ・コードのM&Aの資金繰りもうまく回っているのではないか、と思います。
 
さらに、エフ・コードが面白い点はその後に貸付ファンドのオンラインマーケット「Funds(ファンズ)」を活用して、3カ月タームローンで2億円を調達している点です。
 
そして、2022年11月にサブスクリプションファクトリーが運営する「KaiU」事業を新設分割して設立された会社・KaiUの全株式を取得し、買収することを発表しました。買収金額は3億円となっており、株式譲渡実行日は2023年1月31日を予定しているとのことです。
 
エフ・コードはこうした企業を立て続けに買収することで、CVR改善及び離脱防止を行う機能を拡充するほか、CXデータを確保し、より顧客満足度を高めようとしているのです。

なお、一連のM&Aで手元資金の取り崩しと金融機関からの借入を繰り返してきたエフ・コードは、今年1月6日に公募増資及び第三者割当増資により、総額約18億円に上る資金調達を発表。借入金の返済に充てるとともに、今後の事業成長やさらなる投資の実行、そのための人材確保にも活用していく模様。借入金の返済分については、返済時期を迎えるまでは、金融商品等で運用していくとしています。

資金力の少ないエフ・コードがロールアップ戦略を実行できた理由

ロールアップ戦略はM&A業界ではよく知られた手法で、小規模な会社が乱立しているSaaS領域ではいずれ発生するだろうとは思っていましたが、今回大手企業ではなく、時価総額が約100億円のエフ・コードがいち早く仕掛けている点が非常に面白いと思いました。
 
なぜ、エフ・コードがロールアップ戦略を仕掛けることができているのか。その背景にあるのが、先ほども述べたファイナンス手法が巧みな点です。さまざまな方法を駆使してM&A資金を調達し、それを活用してM&Aを実行するのは王道とも言えるやり方です。
 
また、エフ・コードはCX改善やデジタルマーケティング支援に取り組んできた成果や知見をセミナーや展示会で紹介したり、代表取締役の工藤勉さんがよく経済メディアに出演して会社の事業内容や成長戦略を話したりするなど、IRにも力を入れている印象です。そうした姿勢もM&A資金の調達につながっているのではないか、と思っています。

株式会社エフ・コード「2022年12月期 第3四半期決算説明資料」p36より

そのほか、一連のM&Aにおいてポイントとなっているのが、事業譲受が多いということです。会社ごと買収したのは、KaiUの1件のみ。それ以外はすべて事業譲受となっています。会社ごと買収する際は人もついてくるため買収金額が高くなりがちですが、事業譲受の場合は人がついてこないため、買収金額を安くすることが可能です。
 
また、事業譲受の場合は「のれん」を損金算入することができるため、買い手企業にとっては節税効果になるというメリットもあります。
 
銀行からの借入などによってM&A資金を調達し、立て続けにM&Aを実行したエフ・コードの今後の成果によっては、他のスタートアップも銀行からの融資が受けやすくなるといった効果もあるのではないかと思っています。
 
一方で、1年間で5件の買収を実行したということもあり、PMI(ポスト・マージャー・インテグレーション)が上手く進むのかどうかは気になるポイントです。
 
一連のM&Aが成功かどうかは今後の動き方次第なところもありますが、時価総額100億円ほどの会社が巧みなファイナンスによってロールアップ戦略でM&Aを実行していくというのは非常に面白い事例なのではないでしょうか。今後、こうした動きをする企業が出てくるのかどうか、引き続き注目していきたいと思います。

ココがポイント!

①業績は急成長中だが、まだ規模が小さい上場ベンチャーがロールアップ戦略を軸にM&Aを積極的に仕掛けている。

②ファイナンス手法が巧みで、エクイティファイナンス、デットファンド、銀行などの融資によってM&A資金を調達し、それを元手にM&Aを実行している。積極的な広報・IR活動も調達時の信用力につながっていると思われる。

③会社ごとの買収ではなく、人の移動がない分譲渡価格が抑えられるほか節税効果もある事業譲渡をメインにM&Aを実行している。

④PMIが上手くいくかどうかは気になるポイントではあるが、一連のM&Aが上手くいけば銀行からの融資を受けやすくなるスタートアップも増えるのではないか。

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