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Figmaから学ぶ超大型M&Aを生み出すメカニズム。日本のスタートアップが学ぶべき視点

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M&Aクラウドの及川です。M&Aをアップデートしていきます。

2022年9月15日、クリエイティブソフトウェアのリーディングカンパニーであるAdobeは、スタートアップM&Aの歴史を画するM&Aを発表しました。対象会社はWebデザインツール開発のFigma、買収予定価格は200億ドル(約2兆8,700億円)。日本企業で言えば、JR東日本や京セラなどの時価総額を上回る規模です。

Figmaは2012年、当時19歳だったディラン・フィールド氏が大学で出会った盟友エヴァン・ウォレス氏と共同で創業。それからわずか10年で、長年デザインソフト業界の一強であったAdobeを脅かす存在へと成長を遂げ、同社からの驚異的な金額でのM&Aオファーを引き出すに至りました。

本M&Aについては、すでに日本でも多くの解説記事が書かれています。そこで、FigmaやAdobeの概要や本件がデザイン業界にもたらすインパクトについてはそれらの記事に譲ることとします。

※「共同作業を前提にしたデザインツール」というかつてないコンセプトで、デザイン業界に急速に普及した「Figma」に大きな脅威を感じたAdobe。自社でも共同作業が可能なプロダクトを投入したものの、「Figma」の勢いは止められず、M&Aに踏み切りました。その経緯は、以下の記事に分かりやすくまとめられています。

本稿では、主にスタートアップM&A史の文脈から、その意義を考えてみます。さらに、そこから見えてくる日本のスタートアップM&Aの現在地と今後の展望についても、私見をまとめてみたいと思います。

■案件概要
買い手:Adobe Inc.
売り手(対象会社):Figma Inc.
発表日:2022/9/15
バリュエーション:200億ドル(約2兆8,700億円)

スタートアップM&A史の新たな金字塔に。数字で見るFigmaのスゴさ

まずは本件のスケール感が、創業10年のスタートアップのM&Aとしていかに規格外であるか、過去の著名M&A事例と比較しながら見ていきます。

過去に注目を集めたスタートアップM&A5件の譲渡額

上のグラフは、YouTube(2006年にGoogleがM&A)、Instagram(2012年にFacebook、現MetaがM&A)、WhatsApp(2014年にFacebookがM&A)、LinkedIn(2016年にMicrosoftがM&A)の譲渡額と、今回のFigmaの譲渡額を比較したものです。Figmaの評価は、GAFAMによる著名M&Aと肩を並べる規模であることが分かります。

Adobeの発表によると、Figmaの2022年度の年間経常収益(ARR:Annual Recurring Revenue)は4億ドル超(約574億円)となる見込み。この事業規模自体にも驚かされますが、今回のAdobeによる評価額は、その実に50倍に上る破格の評価です。

このAdobeの決断に対し、市場の見方は厳しいようです。本件の発表前は370ドル前後を付けていたAdobeの株価は、発表後に280ドル前後まで急落。高すぎる買い物と見る投資家が大勢を占めていることが分かります。

しかし、歴史を振り返れば、GoogleのYouTube買収時、FacebookのInstagram買収時も、ほとんどの投資家からは高すぎる評価だと考えられていました。それが今では、YouTubeはGoogleの親会社であるAlphabetの売上高の約10%を占めるまでに。Instagramも、評価額は買収から6年後の2018年の時点で1,000億ドルとの推計もあります。当事者には見えていても、傍からは窺い知れないポテンシャルが存在する可能性は十分にあります。

また、これだけ有望なプロダクトを持つFigmaがなぜ上場を目指さずに、競合と手を組む選択をしたのか、疑問を持つ方もいらっしゃるでしょう。その真意は当事者のみが知るところですが、観点として考えられるのは2つ。1つは創業者のフィールド氏が現時点での利確を選んだということです。

もう1つ、Figmaの今後の事業成長の観点からも、Adobeと組むことで得られるメリットは小さくないはずです。これまでのFigmaは、機能の拡充やグローバル対応など、プロダクト自体のパワーアップを通じてユーザーの拡大を図る(Product Led Growth)戦略を取ってきたと見られます。SMB市場ではこれは有効な戦略でしたが、これからエンタープライズ市場の攻略にも本腰を入れていくとなれば、やはりそれなりの営業体制が必要になります。

この点、世界27カ国に拠点を展開し、デザインソフト業界で圧倒的な知名度を有するAdobeにジョインすれば、同社が40年かけて築いてきた基盤を活用できるのですから、ドラスティックなショートカットが期待できます。多くのスタートアップが直面する「エンタープライズの壁」を乗り越えるにあたり、強力なパートナーを確保できることは、Figma視点で見た本M&Aの大きな意義と言えるでしょう。

超大型M&Aはこうして生まれる。トレンドを超える評価を引き出す3つの条件

続いて、次のFigmaを目指す起業家の視点に立ち、「創業から10年で2.9兆円」の企業評価が付いたメカニズムを検証してみます。ここには恐らく3つの条件が絡んでおり、そのすべてがそろったときに、今回のような驚異的な評価が引き出されると考えられます。

条件1:業界の常識を覆すイノベーティブなプロダクトである

1点目は、提供するプロダクトがユーザーにもたらす価値の大きさです。単に既存のプロダクトより優れているというだけでなく、従来の常識を覆すようなイノベーティブな価値をもたらすかどうか。たとえば、検索サイト「Google」やiPhoneなど、いわゆるGAFAMのプロダクトは、いずれもまさにイノベーティブです。

Figmaの場合も、「共同作業を前提にしたデザインツール」は、それまでに存在しなかった概念でした。単にデザイン業務の生産性を高めただけでなく、デザイナーをはじめとする関係者の仕事の仕方そのものを変えたのです。

「Figma」ユーザーである当社デザイナーの声。
各種デザインツールの使用経験を経て、「Figma」のUXの良さを実感しているようです

また、専用ソフトではなくブラウザ上で動作し、一部の機能は無料で利用できることも画期的でした。誰でも手軽に使い始められることで、プロダクトが多くのデザイナーに急速に普及したことに加え、デザイナー以外の人々でも、ちょっとしたデザイン要素が必要な業務を自分で手掛けられるようになり、デザインに携わる職種の層を広げています。

こんなふうに、そのプロダクトの登場前後でユーザーの行動が大きく変わるようなプロダクトは、既存プロダクトの存在意義を脅かします。この脅威の大きさこそが、M&A時の企業評価を押し上げるのです。

条件2:そのプロダクトが浸透することで、本業を脅かされる大企業が存在する

2点目は、いわば1点目の裏返しですが、ここでのポイントは、そのイノベーティブなプロダクトの登場により、打撃を受けるのが相手企業の本業であること、そして相手企業に大型M&Aを仕掛けるだけの体力があることです。FigmaにとってのAdobeは、まさにこれらの条件にかなっています。

過去の例では、FacebookによるInstagram買収、リクルートによるIndeed買収なども、このパターンにあたります。

条件3:その会社をM&Aしたいと考える大企業が複数存在する

条件1と2がそろった時点で、M&Aのオファーは来る可能性が高いですが、加えて「超大型」のオファーを得るためには、たとえ潜在的であれ、他の買い手候補が存在することが重要です。本業を脅かされている会社が、イノベーティブなプロダクトを持つ新興企業に打ち負かされるリスクの他に、その新興企業をライバルに買われるリスクまで考慮せざるを得ないとなれば、オファー金額は自ずと跳ね上がります。

Figmaのケースで、他に実際にどんなオファーがあったかは分かりません。あくまで可能性としてですが、共同作業ツールの提供における先輩であるGoogleや、デザイナー御用達のOS、Macを提供するAppleなどにも、Figmaと組むメリットは相互にあったでしょう。こうした展開が想定されること自体、Adobeにとっては脅威であり、多少の犠牲を払ってでもFigmaを味方に引き入れたいと考える動機になったはずです。

GAFAMが君臨する世界でどう勝負する?日本発IT企業が取り得る道とは

Figmaのケースでは、GoogleやAppleの存在が、今回の譲渡額を引き上げる隠れた要因となった可能性があることに触れました。一方、日本に目を転じると、時価総額ランキングの上位を占めているのは主に製造業の企業であり、ITスタートアップをM&Aする必然性が高いとは言えません。ITスタートアップのM&Aに取り組む日本企業としては、KDDI、ソフトバンクおよびヤフー、DeNA、楽天、サイバーエージェント、GREE、リクルートなどが挙げられるものの、GAFAMをはじめとする米国企業の購買力にはまだ及びません。

こうした現状を踏まえ、今後、Figmaのように成功するITスタートアップが日本からどんどん生まれていくためには、何がポイントとなるのでしょうか? 起業家と、スタートアップの受け皿となるべき大企業、それぞれの視点で考えてみます。

起業家の視点:早期のグローバル展開で成長力を高める

まず、創業者のExit手段として、IPOを超えるレベルのM&Aを視野に入れるなら、起業の段階から、GAFAMや日本のITメガベンチャーを脅かす事業は何かという視点を持つことが望ましいでしょう。

また、先行企業にとって脅威となるような圧倒的な成長スピードを発揮するには、早くからグローバル展開に取り組むことが鍵になります。Figmaもすでに海外での売り上げが約8割に上っています。

ただし、母国語が世界に通じ、ミックスカルチャーの国でもある米国では、たとえば学生起業家が身近なユーザーに向けてつくったプロダクトなどでも、そのままグローバル市場に通用しやすいのに比べると、日本は必然的に不利な条件下にあります。実際、Figmaも今年、日本版がローンチされる以前から、すでに日本でも普及が進んでいましたが、日本発のプロダクトで逆の現象が起こることは期待しにくいでしょう。

日本企業が早期のグローバル展開を図るためには、世界の市場の中でも特に日本が進んでいる領域で勝負するのが賢い選択かもしれません。ちなみに今年、設立から5年でIPOを果たした、27歳の田角氏率いるANYCOLORなどは、日本のアニメ文化を下地としたVTuberビジネスを手掛けており、この条件に合致していると言えます。実際、直近の2023年4月期第1四半期では、売り上げの3割近くを英語圏を対象にしたサービスが占めています。

さらに、Figmaが今回のM&Aを選択した背景にあったと推測される「エンタープライズの壁」への対処の仕方も、BtoBやプロ向けのビジネスでは重要です。この点について考えるうえで参考になるのが、2021年(発表は2020年)にSalesforceにM&AされたSlackのケースです。

Slackにとって、Salesforceへのジョインを選択する大きな要因となったのは、Microsoftが2017年にローンチした「Slack」の類似プロダクト「Teams」の存在です。Figmaと同様に、Product Led Growthを遂げてきたSlackは、どこかのタイミングでエンタープライズの壁を乗り越える必要があったわけですが、そこにエンタープライズ市場で強力なシェアを持つMicrosoftが参戦してきたことで、競争状況は緊迫。そこで、やはりエンタープライズ市場で強いSalesforceと手を組み、不足していた営業リソースを一気に拡充する対抗策を取ったのです。

このようにタイミング逸する前に大企業と組むか、はたまた独自の販売ルートを開拓するか――それぞれWeb広告、iPhone、SNSなどを介して圧倒的な販売力を持つGAFAMをも超える、新機軸の潜在顧客への接点を見出すことがもしできれば、世界的なメガベンチャーとして羽ばたく展開も見えてくるでしょう。また、後者を狙いつつも、一時的には大企業と組み、市場での一定のプレゼンスを早期に築く選択もあり得ます。

大企業の視点:国内外問わず「将来のGAFAM」を仲間に

日本ですでにシェアを獲得しているIT企業にとっても、今後グローバル市場で巨大化していこうとすれば、いずれGAFAMが立ちはだかってくる展開が予想されます。これに対抗するには、自前でGAFAMになるか、もしくは将来GAFAMになりそうなスタートアップにいち早く目を付け、仲間に引き入れる手もあるでしょう。後者では、イノベーティブなパワーを持つ有望株を他社に先んじて見出し、育てていく力量が問われます。

2021年はPaidyがPaypalに、pringがGoogleにジョインして話題になったように、日本のスタートアップもすでに海外企業からどんどんオファーを受けるようになっています。日本企業もまた、海外スタートアップも対象に積極的なM&Aを仕掛けていくことで、グローバルな競争力アップを図りたいところです。

日本企業によるクロスボーダーのM&Aでは、2012年のリクルートによるIndeedの買収が成功事例の代表格です。また、楽天も2014年のEbates買収など、数件の海外企業買収にチャレンジしています。

一般にクロスボーダー案件では、M&A後のマネジメントに苦戦する例も多い模様ですが、それもトライを重ねることで経験値が高まり、将来の成功の肥やしとなっていくことでしょう。スタートアップ育成の環境づくりが進んでいる米国などからそのエネルギーを取り込み、日本経済の活性化につなげていくためにも、今は果敢に挑戦することが必要な時期ではないでしょうか。

以上、Figmaのニュースを聞いて、改めて日米のスタートアップエコシステムの成熟度の差を感じた私なりに、その現状の差を踏まえたうえで、ここから日本企業が巻き返していくための道筋について考えてみました。ぜひ、多くの皆さんのご意見を伺いたく、コメントなどお待ちしております!

ココがポイント!

①Figmaの譲渡額は、2014年のFacebookによるWhatsApp買収など、過去のGAFAMによる著名M&Aと肩を並べる規模であり、ARR(年間経常収益)の50倍という破格の評価。

②Figmaはイノベーティブなプロダクトにより、Adobeの本業を脅かしてきたうえ、GoogleやAppleなどの事業とも親和性があることがAdobeにとっての「買わないリスク」につながり、買収意欲をかき立てたと推測される。

③日本のスタートアップがGAFAMや国内メガベンチャーを脅かす成長力を付けるには、早期のグローバル展開が鍵になる。

④スタートアップM&Aの受け皿となるべき日本の大企業は、国内はもちろん、海外のスタートアップのM&Aにも積極的にチャレンジし、買い手としての力を養っていくことが、日本のスタートアップエコシステムの発展につながる。

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