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会社の価値はどこにある? スタートアップが理想のM&Aを実現するために押さえておくべきバリュエーションの考え方

未上場の中小企業の場合、オーナーが大半の株式を持っていることが多いものです。一方、スタートアップは急成長を図るため、先行投資型(Jカーブ型)の事業計画を立てることが多いため、初期投資額を集める目的で、VCやエンジェル投資家などから出資を受ける傾向にあります。そのため、スタートアップがM&Aを進める際には、ディールにかかわる関係当事者が多くなるのが特徴です。

そうした背景から、スタートアップM&Aにおいては当事者(≒株主)の思いが錯綜します。スタートアップがM&Aを検討する理由はさまざまで、経営者が次の起業のための資金を作りたいと考えているケースもあれば、あるいはVCがファンドの償還期限を迎えるためEXITを検討しているというケースもあります。

こうしたあらゆる当事者の声を総合し、適切な見通しを立てていく手助けをするのが、M&Aアドバイザーの仕事の中でもスタートアップM&A特有のことと言えそうです。

この連載では、M&Aクラウドのアドバイザーが、「スタートアップM&A」の素朴な疑問を、事例を交えたQ&A方式でお答えしていきます。

Q.会社を売ることを検討中です。納得のいくバリュエーションに持っていくにはどうしたらよいですか?

回答者:M&Aクラウド M&Aアドバイザリー事業部長 福田一樹

スタートアップの起業家からよく聞かれるのが「バリュエーションの考え方」です。今回はスタートアップがM&Aをする際に、「バリュエーション」についてどう考えるべきかについて、お話ししていきます。

バリュエーションを「絶対条件」にしないほうがいい理由

会社の売却を希望する売り手とM&Aアドバイザーとの初回面談で、売却希望額をお聞きします。そのとき、「最低でも〇億円」と提示された金額に対して、「厳しいな」と思うことも中にはあります。

アドバイザーが「厳しい」と考える理由はいくつかありますが、たとえば、「売却希望額に対して、売上や利益が小さい」や「実質利益(役員報酬や私的経費、交際費などの支出を加味した実質ベースの営業利益)において赤字状態が長く続いている」などがあります。

売り手側にもさまざまな事情があるため、初回面談時にアドバイザーに提示する金額は、まずは経営者自身の考える価格をお話しいただいてまったく問題ありません。

ただし、買い手候補との交渉において、売却希望額を「絶対条件」とするのはお勧めしていません。そこがすべての出発点であることは我々アドバイザーも理解をしています。

大前提として、スタートアップM&Aの場合、買い手によってバリュエーションに大きく乖離が起こる(後ほど詳述)、かつ買い手と売り手の間で数年後の事業成長を見越して設計されるアーンアウト(M&A実行後、条件に応じて追加的な対価を支払う仕組み)や段階取得等の特有のスキーム構築が往々にして発生します。

そのため、スタートアップのバリュエーションに際しては、「事業の価値」に加えて「事業シナジー」が非常に重要視されます。この点を売り手側が理解をしたうえで、買い手との間でしっかりと相互理解をして金額交渉に入ったほうが、成約の確度が高まります。この順番を間違えると、金額ありきの交渉になり、理想のM&Aに至らない可能性が生じます。

また、出資時にVCやエンジェル投資家等と締結する投資契約/株主間契約でM&A時の分配についても取り決めがなされているケースが多いです。しかし、M&A時の各ステークホルダーのパワーバランス次第で、最終的に売却価格の配分が契約での取り決めから異なってくることもあるため、その可能性についても考慮しつつ、売り手として許容可能なバリュエーションを判断する必要があります。(ステークホルダーとのコミュニケーションについては次回以降で詳しく説明する予定です)

バリュエーションが重要なことは言わずもがなですが、バリュエーションだけにこだわってしまい、機会損失してしまわないように注意するとよいでしょう。

スタートアップの価値は決算書以外にある

バリュエーションを決める重要な要素として「事業の価値」「事業シナジー」を挙げましたが、これらは決算書に表れている数字だけでは判断ができません。理想のM&Aが実現されているのは、決算書の中には書かれていない魅力を買い手に理解してもらい、それが評価されているケースです

その中で大事になってくるのは、その魅力の「見せ方」です。数字に出てこない部分も多いので、経営者側では気づいていないときもあります。

たとえば、「技術力」をウリにしているスタートアップに対して、必ずしも買い手が「技術力」を評価しているとは限りません。もしかすると「顧客ネットワーク」であったり、「社長を含む経営陣のレベルの高さ」だったりするかもしれません。

このように、売り手の価値を多角的に理解し、決算書等では見えない魅力を評価してくれるような、相性の良い買い手を探すことが非常に重要なポイントとなります。

私たちアドバイザーは、スタートアップM&Aで特に重要となる「事業の価値」や「事業シナジー」のような、表面的には見えづらく、なおかつ買い手ごとに評価ポイントが異なるスタートアップの魅力を引き出すお手伝いをしています。

成約事例から見る「バリュエーション」の決まり方 

では、少し具体的な事例で説明してみましょう。実際の事例を基にした2つのケースをご紹介します。(具体的な社名や業界、数字については、特定を避けるために事実と異なる表現を加えています)

事例1:技術力が評価されたケース

A社は著名な大型ベンチャー企業と関係の深いAI系の開発会社でした。しかし、その企業との仕事が打ち切りになり、その後、自社の技術を活用したSaaSサービスを開発したものの、業績は伸び悩んでいました。

A社の場合、希望バリュエーションは決算書上から読み取れる額よりかなり高めに設定していました。また、当初は資金調達を前提に、パートナー探しに動いていました。

A社に興味を持ったのは、自身もかつてはスタートアップだった同業のプライム上場企業B社です。素人目には、A社の持つ技術はB社でも内製できそうな技術であるように見えるものでしたが、専門知識のあるB社から見ればA社の技術は非常に優れていると高く評価されました

じつは以前から「B社が買い手だったらシナジーがありそうだ」と話していたA社。売り手・A社の価値を高く評価したB社からのアプローチに、売り手の当初希望バリュエーションを大幅に下回る提示、しかも資金調達ではなく段階的なマジョリティ取得の提案ではありましたが、細かく調整して成約に至りました。

本ディールではアーンアウトの設計もされており、A社はB社と事業シナジーを発揮し、業績を伸ばすことで、数年後に経営株主はM&A時の評価よりも高い評価額で残株式のExitが狙える形になっています。

M&A時点でのバリュエーションは希望額に届かなくとも、シナジー発揮による事業拡大後に、最終的に希望に近い条件でのExitを狙える点もスタートアップM&Aの魅力の1つです。

事例2:新規参入を検討していた領域だったケース

C社は数億円の売上があるものの、毎年少しずつ赤字が出ていました。稼ぎ頭だった事業は数年前に売却しており、採算の取れない事業だけが残っていたからです。

資金繰りが苦しくM&Aを選択しましたが、負債額が大きく、デューデリジェンスでは株価をつけてくれる会社がなかなかありません。C社の社長は、「このままつぶしたほうがいいのでは」と嘆いたほどでした。

その中で上場企業D社は、C社の事業は自社でちょうど探していたサービスであったことから、M&Aを前向きにとらえてくれました。バリュエーションは売却希望価格の1/3となりましたが、複数の候補企業から価格の提示を受けたあとだったこともあり、売り手も納得感を得て、そのまま成約に至りました。

多くの買い手企業が検討を控える中でも、事業価値や事業シナジーの可能性を強く感じた1社が手を挙げて、そのまま成約に至るケースもスタートアップM&Aの特徴の1つだと感じています。

A.自社の価値を理解する買い手を探す!

スタートアップM&Aは、前述の通り、通常のM&Aと比較しても「買い手によってバリュエーションが大きく異なる」という特徴があります。

同じ売り手に対しても、違う会社を評価しているのかと思うほど、まるで異なるバリュエーションが出てくるものです。

その背景は買い手によって評価するポイントや発揮可能な事業シナジーがまったく違うことが大きく影響しています。納得のいくM&Aを実現するために、魅力の伝え方に加えて、自社の価値を理解してくれる買い手を探すことが重要です

今回はバリュエーションについてお話しましたが、M&Aにおいて価格が最重要項目の1つであることは間違いありません。一方でスタートアップがM&Aを検討する際には今の価値ではなく、将来の価値にも目を向け、数年後に「理想のM&Aだった」と言える買い手とのマッチングを目指すことが大切です。

そんな買い手を売り手とともに探し、マッチングを生み出すことができたときは、本当にアドバイザー冥利に尽きます。今後も「理想のM&A」を叶えるためのお手伝いができればと思います。

監修者
M&Aクラウド M&Aアドバイザリー事業部長
福田一樹

大阪市立大学経済学部卒。2015年に新卒で住友商事株式会社に入社。船舶事業部に所属し、主に欧州顧客向けに日本建造船を販売するトレード仲介事業に従事。パートナー企業との共同出資会社のマネジメント等を経験した後、クロスボーダーM&A案件を担当。2020年07月よりM&Aクラウドに入社し、M&AアドバイザーとしてスタートアップのM&Aや資金調達を支援。2022年12月より現職。

【参考記事】

文・相馬留美

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