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時価総額は8年で200倍、ヘルステック領域で14社をM&AするJMDCの「データで儲ける」経営戦略

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7月12日、ヘルスビッグデータ事業を展開するJMDCが、電子カルテデータ分析などを手がけるリアルワールドデータの子会社化を発表しました。

このJMDCという会社、おそらく初めて耳にした方もいらっしゃるでしょう。実は今、ヘルステック業界で最も注目を集めている会社の一つです。現在の時価総額は約3,700億円、一時は4,000億円を超えました。業界全体が右肩上がりで伸びているヘルステック業界の中でも、特に目覚ましい成長を遂げています。

JMDCは活発なM&Aで事業規模を拡大してきた会社でもあり、これまでにM&Aで仲間に迎えた会社は14社に上ります。今回はこの知られざるストロングバイヤーJMDCに注目し、そのM&A戦略を考察したいと思います。

■案件概要
買い手株式会社JMDC
売り手(対象会社)リアルワールドデータ株式会社
発表日:2022/7/12
バリュエーション:非公開(ただし「適時開示上の軽微基準に該当しない」とのこと)

医療ビッグデータ事業のパイオニアJMDC。M&Aも駆使し、業界の圧倒的No.1に

JMDCは2002年、元グラクソ・スミスクラインのマーケティング部長だった木村氏が創業。2008年にオリンパスにグループインした後、2013年にオリンパスの不祥事があったタイミングでノーリツ鋼機へと売却されました。ノーリツ鋼機のもとで約8年間、急成長を遂げた後、再び筆頭株主が変更。現在はオムロンが株式の33%を保有、同社の持分法適用会社となっています。

JMDCはノーリツ鋼機時代の2019年12月に東証マザーズに上場、2021年11月には東証一部へ市場変更を果たしました(現在はプライム市場)。同じくヘルステック業界のトップランナーとして知られるエムスリーが製薬会社のマーケティング支援を主としているのに対し、JMDCは診療・健診データの活用支援において、パイオニア、かつトップランナーの地位を獲得。同領域で競合に当たるメディカル・データ・ビジョンとは、現状、時価総額で約7倍の開きがあります。

JMDCが積極的なM&Aを開始したのは、ノーリツ鋼機時代。JMDCのM&A戦略は、ノーリツ鋼機のM&A戦略ともいえます。同社はもともとはミニラボ(写真現像システム)の会社でしたが、2013年にJMDCなどヘルスケア関連会社をオリンパスから譲受し、ものづくりと並ぶコア事業としてヘルスケアに注力してきました。

ノーリツ鋼機から社長に迎えた松島氏のもと、JMDCはヘルスデータ事業あるいは周辺事業を展開する会社を次々と仲間に加えていきます。

JMDCのM&A実績(当社調べ)

ノーリツ鋼機にとっては、JMDC取得当初は異業種であったヘルスケア領域において、M&Aを繰り返しながら事業を急拡大。ロールアップIPO(同じ業界の企業を集約し、規模拡大して株式公開)を経て、巨額のキャピタルゲインを獲得しました。M&Aを活用した経営手法として実に鮮やかです。

今回のリアルワールドデータの子会社化は、JMDCのM&Aとしては14件目。リアルワールドデータは、電子カルテ由来の診療情報データベースと学校健診情報由来のデータベースを保有しており、疾患の因果を経年で明らかにすることが可能な「ライフコースデータベース」を構築している点が最大の強みです。

日経新聞によると、リアルワールドデータはがん関連のデータにも強く、JMDCは製薬会社向けの新サービスの開発などにつなげていくことを想定しているとのこと。同社のグループインにより、保有するデータの種類が増え、より幅広いサービス展開が可能になることに期待をかけているようです。

難易度の高い医療データビジネスで成功した鍵は、先行者利益とユーザー目線

「健康で豊かな人生をすべての人に」を企業理念に掲げるJMDC。主力のヘルスビッグデータ事業は、健康保険組合からレセプトデータや健診データを収集し、匿名化などの加工を施したうえで、製薬会社や保険会社などへ提供するビジネスモデルです。同事業で売上の6割超を占めており、他に遠隔医療事業、調剤薬局支援事業を展開しています。

JMDCのヘルスビッグデータ事業
株式会社JMDC コーポレートサイトより)

昨今、さまざまな領域で注目されているビッグデータを活用したビジネスですが、収益化はなかなか難しいとの声も聞こえてきます。JMDCがここまでの成長を果たせた理由を考察してみると、参入障壁を逆手に取った巧みな戦略が見えてきます。

個人情報の中でも、特にセンシティブな情報である医療データは、まずデータ保有する機関からデータを預かること自体、ハードルが高いようです。高度なセキュリティ体制と会社としての信用力がなくては、取引開始にも至れません。健保の持つデータの活用ではパイオニアであるJMDCも、最初に任せてくれた健保と出会うまでは相当苦戦したようですが、創業者の信念と粘りによって、地道に信頼を積み上げてきました。

現在では、健保を通じて1,000万人を超える被保険者のデータを保有。2013年にノーリツ鋼機にジョインした時点では、すでに業界トップのデータベースを構築していました。健保向けのサービス開発にも継続して取り組んでおり、取引先の維持・拡大を順調に進めています。

また、ビジネスとして収益化するためには、集めたデータを「売れる」形に仕立てなくてはなりません。製薬会社や保険会社のように、医療の現場から得られる情報を必要としている機関は多いとはいえ、こうした機関で活用しやすい形になっていなければ、貴重なデータもその価値を発揮できません。

健保から集めたデータを整える際は、匿名化が必要となるのはもちろんのこと、データのノイズを減らすことも重要。「風邪」の表記だけでも50通りほどもあるという生データからノイズを取り除くには、高度な専門技術が求められます。JMDCはこの「データクレンジング」において、長年の経験に基づくアドバンテージを獲得しています。

また、JMDCは、製薬会社や保険会社へのデータ提供だけでなく、コンサルティング・解析・ソリューションといったサービスメニューの拡充も図ってきました。センシティブなデータを取り扱うにあたり、取引先を絞りたいであろうユーザー各社に対し、データ活用に当たって必要なサービスを一括して提供できることは、JMDCがシェアを拡大していく際の大きな武器になっていると思われます。

ここまで述べてきたような強いビジネスモデルを確立しているからこそ、JMDCは同業あるいは近い領域の会社をM&Aすれば、スケールメリットを発揮できる自信を持っているのでしょう。実際に、2022年3月期の決算発表資料によるとアップセル・クロスセルで大きな成果を上げており、既存顧客向けの売上は前期比約36%増となっています。

8年で時価総額200倍。多彩なM&A・ファイナンス手法の活用とSO発行もエンジンに

2013年にノーリツ鋼機にグループインしてから、今年2月に筆頭株主がオムロンに代わるまでの間に、業績を飛躍的に伸ばしたJMDC。ノーリツ鋼機はJMDCを他3社と合わせて60億円で譲受しており、JMDC単体の譲渡価格は報道によると約20億円。時価総額は8年で約200倍となりました。マッキンゼー出身の松島社長を筆頭に、コンサルティング出身メンバーを多数擁する経営陣の手腕が光ります。

2019年12月のIPO時点からのJMDCの株価の推移
(Google Financeより)

積極的なM&Aを実施するにあたり、株式取得や資金調達のさまざまな手法を駆使していることも注目したい点です。2020年10月のデータインデックス取得時は株式交換、今回のリアルワールドデータの取得にあたっては借り入れを行うなど、事業運転資金を減らすことなく、M&A資金を確保する手法を活用してきました。2020年11月には、PMIの実施を目的の一つに掲げたエクイティ調達も行っており、IRのノウハウにおいても学びになる点の多い会社です。

また、JMDC経営陣のインセンティブ設計も戦略的に進めてきたようです。現社長の松島氏は、もともとノーリツ鋼機の副社長としてJMDCの買収責任者を務めていたこともあり、JMDCの事業には強い思い入れを持っている模様。この松島氏が陣頭指揮を執る体制を築いたうえで、JMDCや子会社の取締役を対象に、繰り返しストック・オプションを発行してきました。グループが急速に拡大する中でも、求心力を持って成長を目指しやすい環境を整えてきたようです。

M&A戦略に長けたノーリツ鋼機のDNAを受け継ぐJMDC。血圧計などヘルスケア領域の計測機器メーカーであるオムロンとの資本業務提携も、同社にとって新たな可能性が広がる展開です。今後、血圧計等のユーザーの日常的な計測データもJMDCの医療データベースに連携させていくことで、より解像度の高いデータ活用にチャレンジしていく模様。JMDCの今後の展開に、引き続き注目していきたいと思います。

ココがポイント!

①同業種の会社を集約して業績を拡大し上場させる「ロールアップIPO」を実現

②業界でも稀有なデータをお金に変えるケイパビリティを構築することで、実はプレイヤーが多く収益化に苦戦しているデータホルダーに対して優位に立てるポジションを構築

③JMDCおよび子会社の取締役に対して繰り返しストック・オプションを発行。時価総額を連動させたミドルリスク・ハイリターンな報酬設計により、求心力の強い事業体を構築

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