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大学発スタートアップが64億円の大型調達。日本のディープテックの未来とは?

UPDATE M&Aクラウド

こんにちは。M&Aクラウド CFOの村上です。

4月22日、大学発スタートアップによる大型の資金調達が発表されました。物流センターなどで活用されるロボティクスソリューションを開発するラピュタロボティクスが64億を調達。理系の最高学府の一つであるチューリッヒ工科大学から誕生した同社は、すでに実証実験も終えた高度なソリューションを擁し、産業用ロボット開発の新たな旗手として注目を集めています。

今回は、同社の資金調達の軌跡をたどりつつ、政府の後押しもあり、昨今盛り上がりを見せている大学発スタートアップの今後について、考察してみたいと思います。

■案件概要
引受人:ゴールドマン・サックス他
対象会社:ラピュタロボティクス株式会社
発表日:2022/4/22
調達額:64億円

巧みなアライアンス活用で、ロボティクスソリューションを拡販フェーズへ

ラピュタロボティクスは、4月22日に64億円の調達をリリースした後、次いで25日には、この調達の一環と見られるみずほリースとの資本業務提携も発表。みずほリースとは、ラピュタロボティクスのピッキングロボット「ラピュタPA-AMR」のサブスクリプションモデルの提供で協働していくとしています。

「ラピュタPA-AMR」は、物流センター内で人と協働し、重い荷物の運搬や長距離移動を担って、生産性向上に貢献するロボットです。すでに日本通運や佐川グローバルロジスティクスで導入されて成果を上げており、今回の調達資金を活用して、今後本格的に拡販に取り組んでいく模様です。

2014年設立のラピュタロボティクスは、スイスのチューリッヒ工科大学の研究所からスピンオフした大学発スタートアップです。CEOのモーハナラージャ氏はスリランカ出身で、高校卒業後に来日。久留米高等専門学校、東京工業大学を経て、チューリッヒ工科大学で博士号を取得しました。CFOを務めるクリシナムルティ氏はモーハナラージャ氏の幼なじみで、やはり東工大で学んだ後、エクイティデリバティブのアナリストとして野村證券に勤務した経験を持ちます。

一般にディープテック系のスタートアップは資金調達に苦労することも多い中、ラピュタロボティクスの歩みを見ると、一つのモデルケースとも言えそうです。これまでにロボット関連企業ではサイバーダインや安川電機、物流関連企業ではモノリス、VCではSBIインベストメントなどから出資を受けてきました。このほか日本通運とはピッキングロボットの実証実験を共同で行い、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)や経済産業省の公募事業にも採択されています。ロボットソリューション開発に必要な資金、パートナーシップを獲得するため、またそのために求められる認知度を高めるため、着々とアクションを積み上げてきたことがうかがえます。

スイスでもスリランカでもなく、日本で起業したモーハナラージャ氏。その理由について氏は、メディアのインタビューの中で、日本にはロボットソリューションの構築に欠かせないハードウェアや制御システム、センサーの開発において、高い技術力を持つメーカーがそろっているからと語っています。高校卒業後に来日したのも、当時発表されたホンダのヒト型ロボット「ASIMO」に魅了されたのがきっかけとのこと。ラピュタロボティクスの起業後は、精密な技術を誇る日本の製造業界をロボットソリューション開発のエコシステムととらえ、多くの会社と巧みに連携してきたことが、60億円を超える調達が可能な現在のフェーズに至る進化につながったようです。

大学発スタートアップに吹く追い風

東京大学松尾研究室発のAIスタートアップを筆頭に、今や日本でも注目度が高まっている大学発スタートアップ。アカデミックな環境を土壌としているだけに、既成産業の常識にとらわれにくく、革新的な製品やサービスを生み出す可能性を秘めている点が魅力です。

米国では1980年代に、研究開発を行うスタートアップを支援するSmall Business Innovation Research(SBIR)制度が設けられ、大学発スタートアップの活性化に貢献してきました。日本でも1999年にSBIR制度が導入されたものの、実績重視型の運用などがネックとなり、実際に支援対象となった企業群の伸び悩みが指摘されてきました。こうした背景があり、長年オープンイノベーションが叫ばれながらも、なかなか機運が盛り上がらない状況が続いてきたのです。

しかし、直近の1年ほどで、大学発スタートアップを取り巻く状況はかなり変化してきました。INITAL「Japan Startup Finance 2021」によると、大学発スタートアップの資金調達総額は、2021年は過去最高の1,072億円に達しています。昨年、岸田政権が目玉の一つとして打ち出した10兆円規模の大学ファンドは、諸外国の大学ファンドの中でも巨額であり、運用益は文部科学省が認定する「国際卓越研究大学」や優秀な博士課程学生への支援に拠出される見込み。今年3月にはすでに運用が始まっていると見られています。さらに、今年4月には、東大の総長が入学式の式辞の大半を費やして起業の意義を説き、話題となりました。

こうした潮流の中、今後は日本でも、有望な大学発スタートアップには投資資金が集中する流れができていくと予想されます。ただ一方で、基本的に研究者の集まりである大学発スタートアップは、たとえ市場価値の高い技術を有していても、いざ投資家とマッチングしようとするとコミュニケーションがスムーズにいかず、アライアンスまで至らないケースも多いようです。ラピュタロボティクスのように、官民の組織と良好な関係を築き、成長の足掛かりにできる大学発スタートアップが増えていくためには、何が求められるのでしょうか。

研究開発×ファイナンスの両輪を回していくには

私自身のアドバイザー経験や周囲からの情報をもとに考えると、大学発スタートアップと投資家の間にすれ違いが起きる要因としては、スタートアップ側には往々にしてファイナンスの知識や相場感を持った人材がいないことが大きいと思います。ラピュタロボティクスはこの点、野村證券出身で、かつ理工系の素養もあるクリシナムルティ氏をCFOに擁しており、稀有な例といえます。

ファイナンスに明るいメンバーが社内にいない場合には、信頼できるアドバイザーを社外に見つけ、関係性を構築していく手もあるでしょう。当社では同様の課題を抱えるスタートアップ向けに、当社に所属するM&Aアドバイザーが顧客のCFOを代行するサービスを展開していますが、こうした形で知見とリソースを補うこともできます。

私自身、M&Aアドバイザーとして、研究所発スタートアップの資金調達を長期にわたって支援しており、同社の戦略と現状を踏まえつつ、提案型のサポートを行ってきました。私も実は理系の大学院出身で、同社の事業内容や課題感を理解しやすいことが、アドバイザリー業務を行ううえでプラスになっています。社外のアドバイザーであっても、自社と親和性の高いバックグラウンドを持つ人材と出会えれば、少ないコミュニケーションコストで緊密に連携できる関係を築くことも可能なはずです。

ファイナンスに長けた人材を確保することに加え、アライアンスを組む相手先についても、戦略的に検討していくことが重要です。特にまだ試作品もないような初期のフェーズでは、自社の事業領域に対してなじみのある会社に狙いを定めた方が確実。大学発スタートアップが開発対象とする領域は専門外の人には理解が難しいため、一般のスタートアップのようにVCのみを回っても、なかなか手応えが得られないことも多いのです。まずは知名度のある事業会社と組んだり、行政の公募事業に認定されるなどして「お墨付き」を得たうえで、研究開発畑以外の会社にもアプローチするのが賢明な進め方といえるでしょう。

かつての大学の研究室では、研究資金を獲得する手段といえば、大学内で予算を獲得する、公募事業に採択される、あるいは企業との共同研究プロジェクトを立ち上げるといったところが主流でした。今のように大学発スタートアップとして株式会社化するケースが増えていけば、研究者たちがより市場価値の高い製品・サービスを追求していく環境が整う一方で、不慣れなファイナンスや資本政策でミスを犯し、経営が立ち行かなくなるリスクが伴うことも考慮しなくてはなりません。そうした事情で有望な技術の芽が摘まれてしまわないよう、M&Aや資金調達のアドバイザーである私たちも、より一層情報発信に努めていきたいと思います。

ココがポイント!

①今回64億円の資金調達を果たしたラピュタロボティクスは、これまでロボット関連企業、物流関連企業、VCなどから出資を受けるとともに、著名企業との共同実証実験、国の公募事業認定なども積極的に活用し、成長の基盤を築いてきた。

②政府により10兆円規模の大学ファンドが組成されるなど、大学発スタートアップを取り巻くサポート環境は整ってきており、今後は有望な大学発スタートアップには投資資金が集中する流れができていくと予想される。

③大学発スタートアップの課題として、ファイナンスの知識や相場感を持った人材がいないケースが多いことが挙げられる。研究開発者による不慣れなファイナンスや資本政策で決定的なミスを犯すことのないよう、初期よりファイナンスの専門家を活用していくことが望ましい。

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