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「M&Aしてから自由度は増した」水田氏が国内最大のライブ配信サービス『Pococha』をDeNAで生み出せた理由

ライブ配信サービスで国内トップの月間利用者数No.1(※)を誇るライブコミュニケーションアプリ『Pococha』。ユニコーン企業にも匹敵する成長スピードで、DeNAの事業の柱を担うサービスとなっています。

同サービスを立ち上げたのは、M&AをきっかけにDeNAにジョインした水田大輔氏です。スタートアップCEOから大企業の社員への転身後、事業で大きな成功をおさめることができたのはなぜなのでしょうか。M&Aから得られたものや、起業家として大切にすべき考え方について、水田氏に聞きました。

※ iPhone・Android国内主要ライブ配信サービス6社 2023年2月1日~2023年10月31日期間の月間集計(Sensor Tower調べ)

(M&Aに至るまでのインタビューはこちら


DeNAでは「アルバイト」からスタート

DeNA ライブストリーミング事業本部Pococha事業部 事業部長 水田大輔氏

ーー水田さんは学生起業した会社・REVENTIVEの事業であった『Dear』を、2016年にDeNAに事業譲渡しました。このM&Aでは、DeNAが『Dear』事業を買い取る代わりに、水田さんがDeNAで新規事業を立ち上げることが条件となっていたんですよね。

はい。おそらくDeNAとしても、新規事業を立ち上げられる人材が欲しかったんでしょうね。

私は勇み立って、事業譲渡の手続きが完了しないうちから、メンターの原田明典さん(MIXI元副社長。その後DeNAに移籍し、現在CSO)に会うたびに、次の事業アイデアを相談していました。

でも、原田さんからは「今は事業のことは考えず、とにかく休め」と言われて。「世界一周でもしてくれば」という提案まで受けましたが、それはメルカリの山田進太郎さんのような成功者がやるものであって、傷心していた私はとてもそんな気にはなれなかったですね。

ーーでは、正式にM&Aの手続きを終え、入社してから新規事業の案を練ることになったんですね。スタートアップから大企業へと環境が変化したわけですが、何か戸惑ったことはありましたか。

じつは入社当初、「アルバイト」採用だったんですよ。アドバイザーや相談役という肩書きで契約を結ぶと言われていたのに、ずいぶん違った肩書だなあと思いました(笑)。REVENTIVEの事業は譲渡したものの、法人自体はまだ存続しており、代表取締役のままだったことが、DeNAの「副業禁止」という当時の就業規則に引っかかってしまいました。

DeNAとしては2017年に副業を解禁し、社内副業の「クロスジョブ制度」や社内転職の「シェイクハンズ制度」なども導入しています。

会社では、いろいろな規則が理解できず、ひたすら怒られる日々でした。経理や人事、法務、労務など、あらゆる部署から「なんでこんなこともわからないの?」と叱責されたんですが、私にとっては「むしろ、どうしてわかると思ったの?」と(笑)。一般企業に就職したことも、研修を受けたこともないので、わからなくて当たり前だし、恥ずかしいとは思いませんでしたね。

ーー入社早々、大企業の洗礼があったと(笑)。他の社員たちとの関係性はどうでしたか。

なかなか溶け込めなかったですね。配属先の新規事業部には、40人ほどいたんですが、誰も近づいてこなかった(笑)。

私の名前は、toCビジネスをしているスタートアップ界隈ではある程度知られていたので、社員たちはやはり微妙な距離を感じていたんだと思います。しかも私の席は、新規事業部の責任者でもある原田さんの目の前。原田さんとしては、私が少しでも環境に慣れやすいよう配慮していただいたのだと思いますが、原田さんの強すぎるオーラによって、かえって社員が遠ざかっていきました(笑)。

ランチも一緒に食べる人がいないので、社外の起業家とばかり出かけていたのを覚えています。toC領域で一緒に頑張ってきた起業家たちからオファーをもらうことも多くありました。「で、いつ辞めてこっちに来てくれるの?」と。これはスタートアップ業界あるあるで、かつては自分もそのように聞く側の立場でした。

迷いと葛藤を経て、toCで生きる覚悟を決める

ーー事業面での変化はどうでしたか。

まず、『Dear』は閉じることにしました。新規事業と同時並行で進めていくという案もあったのですが、原田さんに「ここが本当にSNSの最前線なのか」と指摘されたんです。

原田さんは常々、「起業家は最前線で戦い続けることが大事だ」と口を酸っぱくして言っていました。私も創業当初こそ最前線で戦っているつもりでしたが、何年もサバイブしていくうちに、立っている場所自体がトレンドからズレていくことを感じていました。

SNSのメインコンテンツが、動画やショートムービーに移り変わっている中で、私はまだテキストと写真というレガシーな領域に留まっていた。これ以上続けても、得られるものはないと考え、区切りをつけることにしました。

ーーそれで、新規事業の立ち上げに集中することになったんですね。

そうですね。そして入社1か月が経ったころに立ち上げたのが『Pococha』です。DeNAの新規事業開発のプロジェクトはリーンスタートアップの手法を採用しているので、サービスの企画からリリースまではあっという間でした。

ライブコミュニケーションアプリ「Pococha」イメージ(DeNA提供)

ただ当初、この事業が当たるという確信は持てなくて。確かに、ユーザー数は順調に増えていきましたが、PMF(Product Market Fit)を達成するまでは、これがスモールビジネスのような成長の直線を描くビジネスなのか、スタートアップのように急成長の曲線を描くビジネスなのかがわからなかったんです。

正直なところ、私は『Pococha』がうまくいかなくてもいい、むしろうまくいくはずがないとさえ思っていました。それまで10個のサービスを作り、全てだめにしてきたので、11個目のサービスで大逆転というシナリオを想像できなかった。原田さんにも、「3、4か月取り組んで、成果が出なければ辞めていい」と言われていたので、プレッシャーもありませんでした。

同時に、toBサービスに移ろうかとも真剣に悩んでいました。toCの厳しい事業環境に耐えかねてtoBにピボットして成功した起業家も、周りにはたくさんいましたから。「お前もtoBに来いよ」と言われ、私もそうした方がいいのかもしれないと思ったこともありました。

ーー『Pococha』にも、toCサービスにも迷いがあったようですが、その迷いを振り切ることができたきっかけは何だったんですか。

原田さんから、「自分のストーリーを途切れさせないほうがいいよ」と言われたんですよね。「toCでサービスを立ち上げ、5年間も戦ってきたバックグラウンドを無駄にしてはいけない」と。

確かに、そもそも日本のスタートアップ界隈で、あるいは大企業を含めても、toCサービスの立ち上げ経験がある起業家なんて、“超”希少種。重ねてきたのは失敗ばかりだったかもしれませんが、toC領域では私の持つような経験すらも貴重なわけです。

自分にしかないアイデンティティを捨てて、ゼロから新しい領域に挑戦しても、そこで紡ぐストーリーはコモディティ化してしまう。たとえ、苦しい経験ばかりだったとしても、自分のやってきたことは強みとして受け入れよう――。そう思うようになってから、覚悟が決まったような気がします。起業家の友人たちにも、「やっぱりtoCで生きていくよ」と伝えて回りました。

やはり、『Pococha』が伸び続けていたことも自信につながりました。『Pococha』では、toCサービスの致命的な弱点である収益性を担保するため、アイテム課金の仕組みを取り入れ、サービスローンチの1日目から売上を作っていけるビジネスモデルを構築していたんです。過去のトラウマに向き合い、それを解決するためのアクションを取っていたことが結果につながりました。

大企業にジョインしたことで外れた足かせ

ーースタートアップのCEOから大企業のプロダクトオーナーへと転身を遂げたわけですが、得られたものはありますか。

会社の口座残高を気にしなくていい安心感ですかね(笑)。スタートアップの経営層にはあるあるだと思うんですが、給料日は一番憂鬱なんです。

という冗談はさておき、やはりエンジニアやデザイナーなど、多くの優秀な人材リソースを使えるようになったのは、大きなメリットでした。

toCサービスを展開するスタートアップは、資金調達額が少ないために、ハイレベルな人材が採用できない。すると、無意識のうちに足かせをはめてしまうと言いますか、現状の人材でできる範囲内で企画する癖がついてしまうんです。

でも、DeNAに来てからは、自分の頭の中のイマジネーションを、そのまま形にできている気がします。「こんなにUXにこだわっていいんですか?!」というような、新鮮な驚きがありますね。

ーー人材リソースの制約を気にせずに、伸び伸びと企画できるようになったと。

あと、toCの起業家としてのストーリーを続けられたことも、私にとってはありがたかったです。

toC領域に生きる起業家にとって、そのストーリーを途切れさせないようにするのは、実はとても難しくて。もしも、自分で立ち上げた事業がうまくいかなければ、別の会社に転職するか、M&Aでイグジットするかという2択しかない。別の会社に入ると、ワン・オブ・ゼムとしてtoCサービスには携われるかもしれないですが、自らtoCサービスを作る側には回れないことがほとんどでしょう。

私の場合、M&Aを通して、toCサービスを生み出す側に居続けることができました。もちろん、環境が変わったので、リセットされた感覚はあるんですが、それでも裏ではちゃんとストーリーが続いていて。M&Aは、自分のストーリーを続けるための最高の手段だったと思っています。

ーー『Pococha』はDeNAとは別に独自のミッション・ビジョン・バリュー(MVV)を掲げていて、1つの事業というよりも、1つの会社のような印象を受けます。

人事評価の仕組みにも独自のプロセスを取り入れるというようなこともしているので、まさに1つの会社という表現が近いのかもしれません。

DeNAは規模が大きく、事業展開も多角的なため、全社単位のMVVや制度をそのまま『Pococha』に当てはめても、実際の事業内容との乖離が生まれてしまうんですよね。『Pococha』が競合企業と渡り合っていくためには、独自のMVVや制度を通して、自分たちの事業理念を表現することが必要だと考え、このような形に落ち着きました。

幸い、DeNAは経営陣の懐が深いので、ある程度の節度を守れば、好きなことをやらせてもらえる環境なんです。スタートアップのCEOだった時代と比較しても、不足感はありません。「自分でやれている」という感覚があるし、リソースが増えたことで自由度はむしろ増しているような気がしますね。

大切なのは「ストーリーを前に進めること」

ーー最後に、起業家に向けて一言、メッセージをお願いします。

どんなときでも、「ストーリーを前に進める選択」をすべきだと思います。

特に、サバイブすること自体が目的になってしまうと、起業家のストーリーは停滞してしまいます。自社も前に進めないし、蓄積した経験を他の会社で生かして貢献することもできていない。スタートアップのエコシステムの中で浮いた存在になっているんです。

そんなときには、思い切ってけりをつけ、M&AによるExitでストーリーの転換を図るのも一つの手です。自社の成功も失敗もありのままに受け入れ、他社にバトンとして引き継ぐことができれば、エコシステムのサイクルの中で役割を果たすことができます。それこそが、起業家にとって最も大切なのではないでしょうか。

文・山田奈緒美
写真・強田美央
編集・相馬留美

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