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任天堂株の一部売却から、将来を懸けるヘルスケアでの大型M&Aへ。攻めの投資戦略に迫る

UPDATE M&Aクラウド

こんにちは。M&Aクラウド CFOの村上です。

5月25日、DeNAが医療ICT事業のアルムの子会社化を発表しました。評価額は約506億円(約291億円で57.5%を取得予定)。DeNAにとっては現在第4の事業であるヘルスケア領域において、今後の成長への意気込みが感じられる大きな一手です。

さらにDeNAはこの約2週間前、保有する任天堂株の半数を496億円で売却。今回は、同時期に進められたこの2つのアクションに着目し、DeNAの投資戦略、そして多くの上場企業が直面している課題を読み解いてみたいと思います。

■案件概要
買い手株式会社ディー・エヌ・エー
売り手(対象会社)株式会社アルム
発表日:2022/5/25
スキーム:以下の2段階で取得
①第三者割当増資の引受により、2022年7月に37.3%を取得
②アルムによる自己株式の取得や消却等を条件として、代表・坂野氏が保有する同社の普通株式を取得し、保有比率57.5%まで引き上げる
バリュエーション:約506億円(約291億円で57.5%を取得)

任天堂との7年間がもたらした「マリオ」パワーとキャピタルゲイン

2015年3月17日、DeNAと任天堂は両社の社長が出席して記者会見を開き、スマートデバイス向けゲームアプリの共同開発を進めていくことを発表。それまでスマートデバイス展開に慎重だった任天堂がDeNAと手を組んだことに、業界やゲームファンの注目が集まりました。この提携から生まれたのが、2016年発売の「スーパーマリオラン」や2019年発売の「マリオカートツアー」です。

提携発表の際、両社は相互に220億円ずつ、第三者割当増資の形で出資し合うことを併せて明らかにしました。それから7年後の今年5月10日、DeNAは任天堂株の持ち分の半数を売却することを発表。IR資料では、「今後は7年の積み重ねを基盤に、両社間の事業を中心とした関係の強化へと段階を進めて参ります」としており、すでに協業実績ができている今、出資額を減らしても、今後の事業展開には大きく影響しないとの判断があったようです。

ちなみに、DeNAが任天堂株を取得した2015年から現在まで、任天堂は「あつまれ どうぶつの森」などのヒット作を生み出すとともに、感染症拡大による巣ごもり消費の影響もあり、株価は上昇基調が続きました。DeNAは2015年に1,759,400株を220億円で取得し、うち879,700株を今年496億円で売却。ほぼ4.5倍の株価で売却したことになります。

任天堂の株価の推移(Google Financeより)

この結果、資本業務提携スタートからの7年で、DeNAは「マリオ」をはじめとする強いIPを活用したゲームを開発できる体制を得るとともに、386億円に上る売却益を計上することになりました。任天堂の開発力の高さ、そしてDeNAの投資判断の鋭さに改めて驚かされます。

日本独特の「政策保有株式」を一部売却し、スタートアップ投資へ

DeNAにとって、今回の任天堂株売却の決断の裏にはもう一つ、重要な理由がありました。「政策保有株式」を売却することです。

今回、任天堂株の売却にあたってDeNAが開示した資料には、「政策保有株式の見直しによる資産効率の向上のため」という明確な記述があります。株の持ち合いをはじめとする政策保有株式に対しては、近年、特に海外投資家からの批判が強まっており、DeNAにもおそらく投資家から見直しを求める声が寄せられていたことでしょう。

日本独自の慣習である株の持ち合い。第二次世界大戦後、海外企業からの買収防衛策として行われるようになったと言われており、現在に至るまで日本の経済界に深く根付いてきました。DeNAと任天堂のケースのように、協業を始めるにあたっての関係づくりの一環として行われることもある一方、互いに安定株主になる、言わば「モノ言わない」株主になることが主目的となっている例も少なくありません。他の株主、特に海外投資家の立場に立てば、「投資資金があるなら、できるだけ成長性の高い企業や事業に振り向けて、ROIを追求してほしい」「株主である以上、企業価値最大化に向けて言うべきことは言ってほしい」と考えるのは当然です。

こうした流れを受け、政府も政策保有株式がもたらすコーポレートガバナンスへの悪影響を抑えるための対策を進めてきました。金融庁の方針に基づき、東京証券取引所は2015年に「コーポレートガバナンス・コード」を制定。政策保有株式の保有方針の開示に加え、経済合理性などを毎年検証して説明することを義務付けました。さらに、2018年の改訂版では、「政策保有株の縮減に関する方針や考え方などを開示すべき」と明確に削減を求めています。

今年4月に実施された東証再編においても、新市場の上場規定の中に、政策保有株式との関わりが見られます。DeNAも選択したプライム市場に上場する企業は、流通株式比率が35%以上であることが求められており、政策保有株式はこの流通株式に含めないとの見解が昨年4月に示されました。これも後押しとなり、昨今、上場企業では政策保有株式を売却する動きが目立っており、今後もこの流れは続いていくと考えられます。

(金融庁 令和2年10月20日「コーポレートガバナンス改革のフォローアップ」より)

では、政策保有株式の売却によって得られた資金をどこに振り向けるか――今回のDeNAのアクションは、一つの方向性を示していると言えそうです。同社が任天堂株を一部売却したのが5月10日、アルムのM&Aを発表したのは同25日ですから、両者の検討・実行プロセスは同時期に進められていたはずです。

DeNAは、22年3月期末時点で現金及び現金同等物782億円を保有しており、アルムの買収資金を確保するために、任天堂株の売却が必須だったわけではありません。また、任天堂の株価は比較的安定しており、特に含み損のリスクが懸念されているわけでもありません。そんな中、あえてポートフォリオの入れ替えを行ったことからは、成熟企業である任天堂株の保有またはボラティリティの高いゲーム業界よりも、成長産業である医療ICT業界への投資を強化しようというDeNAの攻めの姿勢が読み取れます。

今後、同じようにスタートアップの成長可能性に懸ける企業が増え、政策保有株式の見直しからのスタートアップ投資がスタンダードな流れになっていけば、国内のイノベーションの活性化につながるのでは――本件がその端緒になるかもしれないと、私は期待を抱いています。

ヘルスケア事業の中核へ。医療ICTのアルムに懸けるDeNAの本気

最後に、今回DeNAがグループに迎えるアルムについても、ポイントを見ておきたいと思います。

アルムの主力製品は、医療関係者同士がリモートで診断画像を共有し、相談できるコミュニケーションアプリ。すでに30カ国、1,100カ所に上る医療機関への導入実績があります。加えて、患者情報の一元管理アプリや患者向け健康管理アプリも、感染症拡大により逼迫した医療現場の課題に応えるツールとして自治体への導入が進み、メディアにも大きく取り上げられました。

医療関係者間コミュニケーションアプリ「Join」
(株式会社アルム コーポレートサイトより)

2014年に現在の医療ICT事業をスタートしたアルム。VCや大手事業会社からの大型調達を重ね、未上場ながら、2021年3月時点で時価総額300億円超(INITIAL調査)の規模に成長しています。2021年3月期の売上は、前期の約2倍増となる16億円。さらに、直近5カ月間の売上の合計は10億円に達している、勢いのあるスタートアップです。

一方のDeNAにとって、ヘルスケアは現在の4セグメントの中で、一番売上規模の小さい領域。直近22年3月期の売上は30億円まで伸びてきたとはいえ、DeNAの事業全体から見れば約2%であり、損益も改善傾向ながらまだ赤字です。

現在、DeNAの売上の約6割を占めるゲーム事業は、ヒットタイトルの有無によって業績が大きく変動します。新タイトルの少なかった22年3月期の売上は、前期比18%減。ライブストリーミング事業は「Pococha」が好調ですが、これもいつまで人気が続くかは読めません。

ヘルスケア事業と並んで「社会課題領域」に位置づけているスポーツ事業は、DeNAベイスターズに加え、バスケットボールの川崎ブレイブサンダースやサッカーのSC相模原もグループに迎えて業績を伸ばしていたものの、2020年3月期以降、感染症拡大の影響を大きく受けました。こうした中でヘルスケアは国内外に大きな市場があり、比較的安定した伸びが望める領域。DeNAとしては、将来の成長につながる基盤を早期に構築したい思いがあったと推測します。

アルムは、すでに一定の事業規模を有しているだけでなく、SOMPOグループや三井物産などとの連携の下で築いてきた国内外の病院ネットワークも持っています。健保や病院のネットワークをベースにした「ヘルスケアビッグデータ戦略」を掲げるDeNAにとっては、相性のよいパートナーと言えるでしょう。なお、代表の坂野氏は、昨年やはりM&AでDeNAにグループインした、認知機能検査システム開発の日本テクトシステムズの取締役も務めており、DeNAの社風にもすでに触れていたと思われます。

坂野氏は、プレスリリースで「DeNAグループの技術・経営基盤を軸に更なる臨床現場へのイノベーション、ビジネス革新をグローバルにもたらせるものと確信しております」とコメント。グループイン後はDeNAのCFOであり、ヘルスケア事業にも立ち上げから関わった大井氏をアルムの共同代表に迎え、パワーアップを図る模様です。おそらくは近々の上場も視野に入れていたアルムが、今後DeNAグループの下でどれだけの急成長を遂げるのか、この点も引き続きウォッチしていきたいと思います。

ココがポイント!

①株の持ち合いをはじめとする政策保有株式に対しては、近年、特に海外投資家からの批判が強まっており、東証再編にあたっても流通株式に含めない方針が示されていることなどから、多くの上場企業が削減を進めている。

②DeNAは今回、持ち合い株であった任天堂株の一部を売却後、医療ICTスタートアップの子会社化を発表。投資効率を追求し、成長産業にシフトする道を示した。

③主力のゲーム事業のボラティリティが高く、ライブストリーミング事業やスポーツ事業もトレンドや感染症拡大の影響を受けやすいDeNAにとって、ヘルスケア事業は最も安定的な成長が望める領域。今回参画するアルムには、ヘルスケア事業の核となる役割が期待されていると見られる。

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