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70ページを5分で!超分かりやすい経産省「スタートアップファイナンスガイダンス」解説<シード~ミドル編>

「スタートアップ担当相」の新設に向けた動きが報じられるなど、岸田内閣が目玉の一つとして力を入れるスタートアップ振興策。今年4月、経済産業省は、スタートアップ、VC、投資銀行、研究者などへのヒアリングをベースに、「スタートアップの成長に向けたファイナンスに関するガイダンス」を取りまとめました。

スタートアップの経営層向けに、「ファイナンスの全体像やポイントを予め把握する」ことを目的としてまとめられた本ガイダンスでは、未上場時からIPO後まで各ステージでの論点を概観。スタートアップやVCの経験談も随所に盛り込まれ、概要把握に役立つ手引きになっているものの、全70ページとかなりのボリュームがあります。

そこで「まずはナナメ読みしたい」という皆さんに代わり、当社のアドバイザリー部門、M&A Cloud Advisory Partners(MACAP)のメンバー2名がガイダンスを通読。アドバイザーとしての現場経験に基づき、起業家の皆さんに特にお伝えしたいパートを抜粋し、コメントと共にお届けします。今回の対象範囲は、ガイダンスの前半に当たる「シード期~ミドル期における課題と検討のポイント」。言わばガイダンスのガイダンスとして、隙間時間にご一読ください。

MACAP ヴァイスプレジデント 岸 貴大(写真左)
慶應義塾大学経済学部卒。新卒でみずほ証券株式会社に入社。投資銀行部門にて、PEファンドをクライアントとした法人営業を行い、M&A及びIPOのオリジネーションを担当。その後、M&Aアドバイザリー部に異動し、化学、自動車・機械業界、その他中小型案件に対するM&Aアドバイザリー業務に従事。

MACAP ヴァイスプレジデント 源 道直(写真右)
一橋大学経済学部卒、公益社団法人日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。
新卒で双日株式会社に入社。資源・エネルギー/不動産/輸出金融も含め広くストラクチャードファイナンス関連業務に従事。その後、M&Aマネジメント室において、化学/資源・エネルギー/不動産/消費財/自動車・機械/社会インフラ/医療セクターのM&Aを担当。また、PMIの制度設計(規定・決裁)にも従事。

エクイティストーリーの構築①:TAMは資金調達時も超重要。1,000億円程度が一つの目安に

P11:0-A「エクイティストーリーの構築に必要な要素」

TAM(Total Addressable Market:獲得可能な最大市場規模)の大きさは投資判断上、超重要な指標です。一部のVCでは、一定規模以上のTAMが見込める事業でなければ、投資検討の対象にならないこともあり、だいたい1,000億円程度が一つの目安になるでしょう。資金調達時というより、起業の時点であらかじめ想定しておくとよいポイントです。

アドバイス1
TAMの大きさは調達のしやすさに直結。試算後は投資家目線で見てみよう

エクイティストーリーの構築②:単なるピッチ資料ではなく、事業活動の基盤に

P11:0-A「エクイティストーリーの構築に必要な要素」

エクイティストーリーは、資金調達時のアピール材料として見れば、まさに「両刃の剣」です。一方で、対投資家以前に自社内においても、事業活動全体の基盤をなすものであることは、早くから意識しておきたいところです。

というのは、投資家向けのストーリーと社内の認識に乖離がある場合、会社のステージが進むにしたがって、数字にはっきり現れてきます。たとえば、社外にはA事業を前面に押し出したストーリーを語っていて、実際にはB事業で売り上げを支えているといったケースです。IPO時には証券会社が作成したエクイティストーリーを採用する会社も多いとはいえ、事業活動の実態が伴っていなければ、投資家には一目瞭然。結局、早い時期から合理性のあるエクイティストーリーを描き、それに沿った事業展開を進めているかどうかが、後々の市場の評価に大きな影響を及ぼします。

アドバイス2
ガワだけのエクイティストーリーではNG。事業活動の実態も見られます

エクイティストーリーの構築③:潜在的な市場規模を具現化させる道筋を!

P12:0-A「エクイティストーリーの構築におけるベストプラクティス」

12ページでは「ビジネスモデル」「市場環境」「競争力の源泉」「事業計画」のカテゴリー別に、スタートアップがエクイティストーリー内で強調したポイントの例が挙げられています。このうち「市場環境」に関しては、「潜在的な市場規模の大きさ」「成長率の高さ」に加えて、「市場環境をどう変えるか」も必要な場合があると思います。

特に国内初のビジネスモデルの場合などでは、実現に向けて規制緩和が必要になるケースが出てくるでしょう。その場合、現状打開策について投資家は必ず突っ込んできます。ロビー活動など、規制緩和に向けた活動計画をまとめておくことをお勧めします。

アドバイス3
市場の潜在力をどう引き出す? 規制緩和等への働きかけが問われることも

VCや経営者持分比率の考慮①:事業会社と組み、安定株主を確保する手も

P14:2-A「VCや経営者持分比率の考慮」

VCと異なり、上場後も引き続き株を持ち続けてくれる株主を確保するなら、事業会社に出資してもらうことも選択肢の一つです。上場が近くなってから株主構成を見直し、事業会社に入ってもらうケースもよくありますが、早い時期から事業会社と組み、その知名度や販路を活用して成長を加速させることができれば、一石二鳥といえます。

アドバイス4
上場後も見据えた安定株主の確保には、事業会社からの出資受け入れもアリ

VCや経営者持分比率の考慮②:種類株の活用で経営者の議決権を確保

P14:2-A「VCや経営者持分比率の考慮」

ここはおそらくグラフの記載ミスで、「B種類株式」と「普通株式」が逆の位置に記載されているように思われます。グラフの右に説明されているように、種類株は通常、経営者の裁量範囲を確保するため、出資者の議決権を制限する形で発行されるもの。普通株を持つ経営者がマジョリティを保有している状態をつくりたいはずです。

アドバイス5
種類株の活用で、まとまった出資受け入れと経営者の議決権確保を両立可能

投資契約の締結:契約内容はしっかり確認を!上場できない場合も想定しよう

P15:2-B「投資契約の締結」

VCから出資OKの連絡が来ると、経営者はほっと一息つきたくなると思いますが、その後の契約書面の確認プロセスも慎重に進めたいところです。そもそも契約とは、物事がうまくいかなかったときの紛争を想定して結ぶもの。上場を目指す意気込みは脇に置き、冷静なシミュレーションをしなくてはなりません。弁護士など、法務に明るい第三者に協力してもらった方が安心です。

アドバイス6
契約書面の確認は慎重に! 最悪のケースも念頭にフェアな着地点を探そう

ストックオプションの設計:税務だけではないストックオプションの難しさ

P16:3-A「ストックオプションの設計」

給与水準を低めに設定せざるを得ないシードやアーリーステージのスタートアップにおいて、社員の採用やモチベーションアップの切り札になっているストックオプション(SO)。実際のところ、適切に活用するのは難しい仕組みでもあります。税金面の対策が煩雑なことに加え、会社のステージが上がるに従って発行価格が高くなっていくため、社員の入社時期によって発行価格に差が出てしまう点にも注意が必要です。

また、SOはあくまで会社が上場できることを前提にした制度であり、現実には上場に至らない可能性もあることも考慮しなくてはなりません。SOはあくまでオプションととらえ、給与水準の方を会社の成長に応じて調整していく形がベターでしょう。

ちなみに、給与に関しても、こちらは通常、後の時期になるほど採用時に高めのオファーが可能になり、SOとは逆方向の不公平感が出やすくなります。経営者には、早い時期から将来を見据えた採用計画や給与改訂プランを描いたうえで、臨機応変に対処していくことが求められます。

アドバイス7
SOはあくまでオプション。給与も含め、計画的なインセンティブ設計を

CFOを選ぶ際の観点:苦境の時も、共に走り続けてくれる人を

P17:4-A「CFOを選ぶ際の観点と求められる資質」

「自社のカルチャーを尊重し、チームとして課題に向き合い解決することのできるCFO」は、言い換えれば、「計画通りに業績が伸びない場面でも、腰を据えてコミットし続けてくれるCFO」。仮に苦境に陥ったタイミングで自社のCFOに見限られ、最悪のケースとして退職されてしまったとしたら……そうした会社にはVCも出資を控えるようになるため、一層苦しい状況になることが想定されます。怖い展開ですが、実際に起こり得る話です。

アドバイス8
ミッションやビジョンを共有できるCFOと、長期的な信頼関係を

未上場時の資金調達手段①:黒字転換するまでは借入は慎重に!

P20:5-A「未上場期の資金調達手段」

よく「エクイティコストよりデットコストの方が低い」と言われますが、あくまで返済可能であることが前提の話です。すでに黒字化していて、「売掛金を回収できるまでタイムラグがあるので、その間の運転資金が必要」といった状況ならデットもよい選択ですが、基本的にはスタートアップは、デットには気軽に手を出さないことをお勧めします。赤字の状態での借入が引き金になり、最終的には民事再生法の適用を余儀なくされる……といった展開もあり得ることを想定しておきましょう。

アドバイス9
「借りられるから」デット活用はリスキー。「返せるから」を大前提に

未上場時の資金調達手段②:シリーズA以降でも使えるコンバーティブル投資手段

P20:5-A「未上場期の資金調達手段」

コンバーティブル投資は、以前はシード期に限って活用される手法と考えられていましたが、最近はシリーズA、B、Cあたりで使われることも増えてきました。各ラウンドの前段階で特定の投資家にいったん資金だけ出してもらい、ラウンド完了後に株式を割り当てる手法で、スタートアップにとっては必要な資金をスピーディーに入手できる仕組みです。投資家にとっても、その後のラウンドに参加するのに比べ、一定のディスカウントが受けられるメリットがあります。

12~18カ月の転換期限が設けられていることが多い「J-KISS」、より自由度の高い「SAFE」といったひな型が公開されており、誰でも活用可能。緊急につなぎの資金が必要になったときに備え、一度チェックしておくとよいと思います。

アドバイス10
必要資金をスピーディーに得られる「J-KISS」「SAFE」も知っておこう

以上、ガイダンスの前半「シード期~ミドル期における課題と検討のポイント」をたどりつつ、私たちの現場経験を加味したアドバイスをお送りしました。次回は、後半の「レイター期、IPO前における課題と検討のポイント」「IPO後における課題と健闘とポイント」について、まとめたいと思います。ご意見・ご感想などありましたら、ぜひお寄せください!

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